女性のADHDが増えている、もう「男の子の障害」ではない、男性と違う特徴で診断遅れがちに
「男の子の障害」とされてきた背景
臨床心理学者のキャスリーン・ナデュー氏が共同執筆した本『AD/HD&body : 女性のAD/HDのすべて(Understanding Girls with AD/HD)』は、ADHDが女の子にどう現れるかを特徴づけようとする初の本格的な試みの一つだった。この本が米国で出版された1999年、ADHDは「男の子の障害」と考える研究者がほとんどだった。 「学会で笑われたものです」。今では女性のADHDの第一人者とされているナデュー氏は、当時を振り返る。「週に3回校長室に呼び出されたり、停学処分を受けたり、暴言を吐いたりするのはたいていが男の子です。それなのに、おとなしくて成績優秀な女の子にADHDだって? と言われました」 最近はその考え方が変わりつつあるが、今でもADHDに関する研究のほとんどが、男の子や成人男性を対象にしたものだ。その結果、ADHDといえば、うるさくて人の邪魔ばかりする男の子というイメージが定着してしまっている。
見過ごされがちな理由
ADHDを持つ女の子の多くは、学校で優秀な成績を収めているものの、その裏では何週間も集中できずに課題を提出する間際になって徹夜していたなどという苦労話が隠れていることがある。 「先生や親に怒られたくないからといって、女の子は必死になって問題を隠そうとします」とナデュー氏は言う。女性として社会で生きる人々は、周囲の期待に応えるために自分の症状を埋め合わせる方法を探そうとする傾向にあると、専門家は説明する。ADHDの女性が「うまくやろうと思ったら、ほかの人の倍以上努力をしなければならないのです」 「本当はぼろぼろなのに、それを人に知られるわけにはいかないんです」と話すのは、エール大学感染・免疫センターの博士研究員で神経科学の博士号を持つジャナ・モエン氏(31歳)だ。 モエン氏自身、20代後半でADHDと診断されたが、治療を受けていない多くの女の子と同様に、学校ではトップの成績で、その後仕事でも成功した。しかし長年自分の症状を隠し続けたことで、精神面や自尊心の問題を抱え、プライベートな人間関係に悩んでいた。 モエン氏のように子どもの頃から症状を示していても、女の子や女性のADHDは感情や学習面の問題として片付けられがちで、医師への相談を勧められることはあまりない。性に対する先入観も影響しているかもしれない。 2004年と2010年に発表された研究では、教師にADHDの子どもたちに関する記述を見せたところ、子どもの名前および男女を示す言葉を女子から男子に変えると、治療や特別な支援を受けるよう勧める傾向があるという結果が出た。 つまり、女の子のADHDは見過ごされ、治療されないまま大人になってしまいがちということだ。米ジョンズ・ホプキンス大学医学部の助教でメリーランド成人注意欠陥障害センター長を務めるデビッド・グッドマン氏が指摘するように、子どもの場合、ADHDを持つ男の子と女の子の比率は約3対1であるのに対し、成人になるとそれが約1対1になるという。2017年に学術誌「SAGE journals」に発表されたこれらの数字は、ADHDに男女の差はなく、女性の方が診断が遅いだけという状況を示している。