フィリピン新政権で懸念される「ミンダナオ和平」停滞と過激派の台頭
1. マルコス新政権誕生の衝撃?
Dragana Stojanovic/stock.adobe.com
「ピープルパワー時代の終焉」「独裁者一族の復権」「マルコス黄金期の幻想」。2022年5月のフィリピン大統領選挙と相前後して、こうしたセンセーショナルな見出しがメディアを賑わす。実際、1986年の人民革命によって国を追われた独裁者マルコスの一族が最高権力の座に就いたことには、民衆による政治変動をメディア越しに「共有体験」した多くの日本人にも衝撃を与えたのではないだろうか。 フェルディナンド・ボンボン・マルコス の勝因については、すでに提示された多くの論考 [1] に譲るとし、本稿では、新政権に託された、そしてなによりも日本が長年にわたって支援してきた、(未完の) ミンダナオ和平 への影響と和平の行方がフィリピン社会に与える影響について考えてみたい [2] 。 今回の大統領選の演説を通じて、マルコスは漠然と「団結(unity)」を唱えたものの、ミンダナオ和平に対する方針(公約)にはほとんど言及していない。ここに暗示されているのは、バンサモロ [3] 社会内での分断線とムスリム有力クラン(氏族)の政治的影響力である。
本文:6,937文字
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谷口美代子