人と比べてしまう癖はどうしたら直る?【読者からのお悩みに専門家がアドバイス】
「隣の芝は青く見える」と頭では分かっていても、自分を他者と比較してしまう癖が抜けないと、その下で苦しむのは自分自身ですよね。比較脳に苦しんでいるのはあなただけではありません。比較が及ぼす不安や脅迫感などの心理的インパクトは社会に充満しています。それってつまり、何かの偶然で多くの人がそうなってしまったのではなく、私たちが育てられた文化そのものに「比較すること」が埋め込められていると言えるのではないかと私は考えています。 【写真】心理学者に学ぶ、2人の関係を再燃させるための7つのヒント 例えば、「〇〇さんはもう結婚して子供もいるのに、あなたはまだ独身なの?」「あのお母さんは毎日手料理をしているのに、あなたは出来合いのお惣菜?」「〇〇さんは仕事が早くて効率的なのに、あなたはどうしてそんなに遅いの?」など。 巷でよく耳にするコメントの多くは、実は比較を通じて自分や他者に多大なプレッシャーをかけるものです。このような例を並べてみると、私たちを取り巻くカルチャーは「幸せになること」以上に「効率や成功」を重んじていると言えます。無論、経済力や成功がなければ幸せになるのは難しいと考える人もいるでしょう。しかし、逆のことも言えるはず。どんなに経済力や社会的成功があっても、心の底から幸せを感じられないのなら、一体どんな意味があるのでしょうか? 動物社会を見ても、生き物は比較をすることで序列を決定していることが分かります。猿山の社会。狼の群れ。そして、鶏のつつき順も。動物たちは比較を通じて序列を決め秩序を保ち、行動を効率化します。同じように人間社会においても上司と部下、先輩と後輩の関係を重視する職場の序列であったり、家父長制、そして、学歴や仕事の出来栄えが地位を決定する要因として評価の対象となることが多く、多くの職場はこのような比較マインドを活用する主な場として挙げられるでしょう。 もう一つ大切な点があります。質問は、比較してしまうことで劣っているように感じてしまう苦しみに触れているのですが、比較による優劣の罠は両側面に働きます。劣等感や落ち込みだけではなく、逆に優越感を感じている時も実は危険信号。優劣の比較は同じシーソーの上にあるので、気分がいいのも束の間。また落ちることを恐れたり、優勢であることに孤独を感じたり。“上位にいることの喜び”はそう長く続かないことでしょう。 比較や序列は、日本だけでなく世界の社会構造に深く根ざしているのが現状です。これは悪いことではありませんが、その下で苦しんでいる自分に気づいたなら、自分自身で「選び直す」だけの勇気を振り絞る時。もし、このようなカルチャーを「一つのものの見方だ」と捉え直すことができたなら。「私はこのような捉え方に合意するか?」を考え直し、選び直すことが可能になります。 その時、何百年も続いている社会文化をあなた一人で変えようとする必要はありません。あなたは、あなた自身のカルチャーを選び、作り直せばいいだけなのです。私も以前は質問者さんのようについつい比較してしまう自分の心に苦しみ、違和感を覚えるようになりました。私はヨガや瞑想を通して自分の心の働きを深く観ることをプラクティスにしたこともあり、次第に不快に感じることは自ら選びなおそう、と。自分から変わることを選ぶようになりました。 私が選び直すようになった、“私のカルチャー”の価値観とはいかなるものでしょうか。私の価値観は、「Authenticity(本心から生きること)」、「Resilience(逆境に強くなること)」、「Courage(自分らしい道を選ぶ勇気)」、そして「Uplift Others(他者を励ます志)」です。これらの柱が私の中で明確であるからこそ、私の心の中には自分を他者と比較する余地はあまりありません。 また、「比較すること」を重んじないからこそ、私なりのマイ・ルールがいくつかあります: 1. ソーシャルメディアは、非現実的なイメージを活用することがあることを理解し、私はソーシャルメディアを厳選し、あまり時間を費やしたり、意識を注がないようにしています。インスタグラムは自分の本心に沿ったメッセージを発信し、コミュニティと繋がる手段として考えており、個人的な利用では一切スクロールしないというマイ・ポリシーを守っています。 2. 私は、人はみんな同じだと考え、人類を「みんな同じチーム」だと捉えています。だからこそ、他者の成功を祝福しますし、万が一祝福できない自分がいた際には、相手を“対戦相手”としてではなく“チームメイト”として置き換えることを自分自身にリマインダーします。 3. (2)と同じ理由で、子どもやスタッフ、友人たちや自分自身についても、前に挙げた例のような比較する言葉を使いません。 大切なのは、他の人や社会がどうあろうと関係なく、自分が納得でき、快適に感じられる自分自身のカルチャーを描き、作り出していくこと。小さな一歩から始めることで十分ですが、その一歩を踏み出す前に、まずは心のキャンバスをフレッシュにするよう、以下のステップを実践に移してみてください。 ▼ステップ1: これまでのあなたの人生において、「比較すること」はどのように奨励され、モデリングされていたかを書き出してみましょう。親や学校、テレビや一般社会から「〇〇さんのように」「兄弟や姉妹、〇〇家の子はこうなのよ」など、言葉として言われてきたことや、言葉にならなくても周囲から吸収してきたメッセージについて、まずは自覚意識を高めましょう。 これまでは、比較をやめられない自分を否定してきたと思います。今度は、これらの“吹き込み”情報源を明らかにしたことで、こんな文化環境で育ったなら「比較脳が私の心に染み付いてしまって当たり前」と、自分の味方になってみてください。些細なことに聞こえるかもしれませんが、癖づいた習慣を本当に変えようと思うなら、その第一歩は、癖の働きについて自覚意識をはっきりさせ、自分は自分自身の一番の味方であることです。 ▼ステップ2: それが「ただの染みついた習慣なのだ」と見極めたなら、時間をかけて野生の馬を調教するように癖やパターンに気づけた度に、気づくことのできた自分にご褒美を与え、褒めてあげてください。 ▼ステップ3: 少しずつ比較してしまうことを否定しなくなり、次第に比較に費やす時間が減ってくると、これまで比較に使っていた意識のエネルギーが解放されます。次に、新たな思考を取り入れてみましょう。「私はありのままで価値がある」や「私は効率や成功に訓練されていたけど、今は自分の価値観に基づいて新しいカルチャーを作り始めている」と。 ▼ステップ4: 長年の習慣を覆すには時間がかかり、何よりも繰り返しが必要だと理解しましょう。自分に優しく、親切で、何より根気よく接してみてください。ここでの新しいモットーは「どこにいても、何をしていても、していなくても。私はありのままの自分を大切に受け入れます」、と。お守りのように、フレッシュな心の土壌にそんな温かな思考の種を植えてみてくださいね。