世界史的に見る「ウクライナ危機」 歴史の潮目は変わったのか /国際政治学者・六辻彰二
2つの時代との共通点と転換点
ウクライナ危機は、「限られた経済圏」をめぐって二つの勢力が対立し、それが抜き差しならない緊張をもたらした点で、帝国主義時代と共通します。一方、全面衝突を避けなければならない大国同士が、有利に外交を展開するための手段として軍事力を用いる点で、むしろ冷戦時代と同様です。 それが「はったり」と思われては効果が薄いため、双方は「いざという場合には全面衝突も辞さない」という「本気度」を相手にアピールせざるを得ません。そのため、軍事的な威嚇、限定的な軍事行動、経済制裁、宣伝などを通じて緊張がエスカレートする状況は、全面的な軍事衝突を避ける必要が大国間の外交を動かした冷戦期と共通する特徴です。しかし、経済や情報のグローバル化が進んだ現代、それらが世界全体にもたらす影響は、「住み分け」が可能だった冷戦期と比べものになりません。その結果、緊張を高めたり、和らげたりすることが外交の手段になりやすくなるといえます。 ウクライナ危機は、帝国主義時代のように大国間で摩擦が起こりやすく、冷戦時代のように全面衝突への緊張が外交の手段となりやすい時代への転換を象徴する出来事といえるでしょう。