「過労死ラインは軽く超えています」長時間労働にハラスメント、持続可能な映画制作の現場をどうつくっていくか
映画制作現場だけの問題ではない
歌川さんは「フリーランスが置かれている劣悪な労働環境は、映画制作現場だけの問題ではないのでは」と話す。 「昨今報道されるさまざまな問題を見ていると、労働時間や低賃金、セクハラ被害などは、他の業種でも似たような問題を抱えていると感じます。一人一人が『労働環境をよくしたい』と思っても、受け皿となる中間団体がないところも」 文化庁では昨年、文化芸術分野で働くフリーランスと制作会社の契約関係を適正にするための検討会が設けられ、ガイドラインと契約書のひながたづくりが進んでいる。 労働問題に詳しく、芸能従事者の労働相談を受けることも多い菅俊治弁護士はこう話す。 「日本は労働組合をつくる動きが弱いですから、行政がモデルとなる契約書のひながたを提案することは重要だろうと思います。適切な内容の契約書がないために、例えば発注側が無責任に修正を要求し、受注する側はそれにこたえざるを得ない状況に追い込まれたりといったことも起きます。適切な内容の合意がしかるべき時期に結ばれるようになるだけでも、状況は相当よくなります」 一方で、こうも言う。 「そもそも、契約が働き方の実態を反映したものになってない例が多いのが問題です。名目上フリーランスとされていても、上長の指揮命令を受けて働いている人は、裁判で『労働者』と認められる例が多くあります。監督的な立場にない人は原則として労働契約を締結させ、製作者サイドに労働者でないことの立証責任を負わせるような制度を設ける必要があると思います」 スタッフが長時間労働やハラスメントに怯えることなく、安心して働けるようになるかどうかは、「発注元の大企業や政府・自治体、テレビ局、広告企業といった、サプライチェーンの鍵になる企業・団体がその気にならなければいけない」と菅弁護士は言う。 「こうした影響力のあるアクターが業界の約束として末端の制作会社に対して標準契約を取り入れることを求めれば、現場は変わります」 歌川さんは「映画界で働く人たち自身が、労働環境をよくするにはどうしたらいいかを議論し、その声を可視化することで、実際に改善へとつなげていく。そういったことをJFPで担っていきたい」と考えている。 「他業種の方と話をすると、『うちも同じ。映画業界が変わればいろんなところに波及して、世の中がよくなると思うから、がんばって』と言われます。狭い業界の話ではなく、働く人たちの権利の問題としてもとらえていきたいと思っています」