睡眠時無呼吸症候群の治療継続率、98%超え―その診療内容とは
◇SASの検査、診断、治療法
SASの治療は、日本呼吸器学会が出しているガイドラインに則って行われます。SASが疑われる患者さんにはまずご自宅で簡単にAHIを計測できる簡易検査を行っていただき、そこで出たAHIの数値が高い場合は当院で1泊し睡眠ポリグラフ検査を受けていただきます。 この検査の結果AHIが20以上(1時間に20回以上無呼吸状態になる)あり、日中眠気を感じる方には、CPAPと呼ばれる、鼻にマスクを装着して睡眠中に空気を送り込んで上気道を空ける治療を受けていただくことになります。
◇簡単で効果が高いCPAP
CPAPの一番のメリットは、上気道を広げることで手軽に無呼吸の回数を減らすことができる点です。実際、CPAPで使う機器から送られる空気によって喉の空気圧が高まるため、いびきの原因となる上気道の狭まりがかなり解消されます。上気道が狭くなりいびきをかくような状況だと、ときには気道が極端に狭くなり無呼吸状態となるので、それを簡単に改善できるCPAPは優れた治療法といえるでしょう。 また、AHIが20以上あり日中の眠気がある方はCPAP療法を保険診療内で受けることができます。診時にお支払いいただく診察費(機器使用料を含む)は3割負担の場合1回あたり4500円ほどで、機器購入の負担はありません。 一方で、CPAPは根本的な治療ではないため、睡眠時に無呼吸状態を防ぐには基本的に生涯を通じてマスクを装着し続ける必要があります。しかし、マスクから送られる空気が口から漏れてしまったり、鼻や喉が乾燥して痛みを感じたりといった理由から治療を中断してしまう方もいます。CPAPの治療を1年間継続する方は全体の約70%程度という報告もあり、薬を飲むだけの治療にはない継続の難しさがあるのは事実です。
◇継続率98%以上の東京病院での取り組み
ちなみに、私は現在、約400人の患者さんを治療しています。そのなかで治療を途中で断念するのは年間2~3人ほどなので、継続率は高いといえるでしょう。特に、CPAP治療は開始直後にうまくいかないと早々に辞めてしまう方が多いのですが、直近での開始後1年継続率を調べたところ、2022年7月からの1年間で56人に導入し1年以内の脱落は1人のみでした。 とはいえ、特別なことをやっているわけではありません。CPAPの治療には小さなトラブルがつきものなので、そのつまずきに対して具体的なアドバイスを行うことを通じて治療継続を促します。たとえば口から息が漏れる方には口をテープで閉じるやり方を伝えたり、乾燥して喉や鼻が痛いという方には加湿器を使っていただいたりしています。寝ているときにマスクが顔や鼻に装着されることで寝付きにくさを感じる方は多いのですが、そういう場合は慣れるまでとにかく、1か月に1回でも装着できた成功体験を称賛して継続を促しています。 SASに限らず、呼吸器の病気の治療は患者さんからいかにやる気を引き出し、継続していただくかが重要です。呼吸器内科の医師として患者さんを決して責めず、つねに前向きにさまざまなコツをお話しすることを積み重ねる。そのような診察が毎月治療に来ていただくことにつながり、1年継続率の高さに結びついているのかもしれません。