「下請けいじめは許さない」大手企業に対峙する「Gメン」どんな仕事?
中小企業は原材料費や燃料費の高騰で経営が圧迫され、いつ廃業に追い込まれてもおかしくない状況が続いている。追い打ちをかけるのが、取引先の大手企業からのやまない理不尽な要求だ。中小企業の経営者からは「取引価格の見直し交渉に応じてもらえない」「値上げを求めたら相見積もりを取られて逆に値下げされた」といった悲鳴が上がる。それでも多くは取引を打ち切られる怖さから、泣き寝入りせざるを得ないのが実態だ。 大手企業の営業職を60歳の定年まで勤めた男性が第二の人生に選んだのは、経済産業省中小企業庁の取引調査員だった。下請けいじめを許さず、大手企業に対峙する通称「下請けGメン」だ。中小企業の頼れる味方として2017年に導入された仕事の内情を追った。(共同通信=高田香菜子) ▽対等に扱ってもらえる中小企業は独自技術を持つ一握り 山田幸雄さん(仮名)は下請けGメンになって2023年で5年目になる。もともとは大手企業の営業マン。当時はトヨタ自動車やホンダといった大手自動車メーカーが得意先だった。 山田さんが営業で外回りをする中でよく目にしたのは、大手企業との取引で苦労している中小企業の姿だった。大手企業の担当者に対等に扱ってもらえる中小企業は独自の技術を持つ一握りしかない。取引の価格は通常、大手企業が指定する「指し値」だ。中小企業は価格に不満があっても、原価を詳細に計算して交渉するほどの余裕がないのが現実。しかも取引価格が一度決まると、5年たっても10年たっても変わらないことが当たり前だったという。
山田さんは定年が近くなり、再雇用で同じ会社にとどまるか、それとも新しい仕事に就こうかと悩んだ。そんなときに人材サービス会社から下請けGメンの仕事を紹介され「自分の経験が生かせるのではないか」と思いきって転身した。 ▽聞き取り調査にこぎ着けられるのは10社のうち2、3社 下請けGメンの仕事の中心は中小企業への聞き取り調査だ。まず電話をかけて訪問の約束を取り付ける。いたずらや営業の電話と勘違いされることもしばしば。10社に電話しても話に応じてもらえるのは半分ほどだ。そこから訪問までこぎ着けられるのは2、3社くらいという。 経営者に会えても初対面で本音を引き出すのは難しい。ここで生きてくるのが営業マンの経験だと感じている。相手の業界が抱える問題や商習慣を事前に頭にたたき込んで臨み、調査の意図や目的をしっかり伝える。山田さんは「年齢が近いということも相手の警戒感を和らげてくれている」と話す。Gメンの認知度が上がってきているのも一助になっている。