「下請けいじめは許さない」大手企業に対峙する「Gメン」どんな仕事?
ただ、Gメン発足から6年たっても、中小企業の経営者から聞かされる話は変わらず厳しい。取引価格の交渉を巡っては、大手企業の威圧的な姿勢が目立つ。中小企業の経営者からは「3年先まで納品してほしいと言われたのに1年で終了され、抗議したら他にも取引先はあると言われた」といった訴えを聞く。大手企業は原材料費や燃料費を理由にした値上げには比較的寛容になってきたが、人件費を理由にした値上げは受け入れないという風潮が根強く、山田さんは問題視している。 ▽Gメンの一言で価格交渉がとんとん拍子に 中小企業が置かれている環境が以前より改善していると感じることもある。ある金属加工会社が納入先の親会社に値上げを申し入れたところ、満額回答をもらえた。 交渉の突破口となったのは、政府が2020年に始めた「パートナーシップ構築宣言」。下請けいじめをなくし、取引を適正化するための官民の取り組みだ。親会社が宣言に賛同していたことを、山田さんが金属加工会社の社長に伝えたところ、とんとん拍子で交渉が進んだという。大手企業にとって痛い所を突くアドバイスで、下請けGメンの面目躍如だ。
これまで話を聞いた経営者は数百人に上るという山田さん。「人と話すのは苦にならないし、地味な仕事だが、やりがいがある」と目を輝かせる。 ▽Gメンは300人、さまざまなキャリアの持ち主 下請けGメンは2017年の発足時には100人に満たなかったが、現在は約300人まで増えた。地域ごとに配置されており、山田さんが所属する東京エリアには約100人いる。年齢は50代後半~60代が中心だ。メーカーの営業や調達担当、金融機関の融資担当といったさまざまなキャリアの持ち主がいる。ほとんどが男性だが、中には女性もいるという。 大企業と中小企業の価格交渉を巡り、中小企業庁は毎年3月と9月を促進月間に定め、終了後に中小企業へのアンケートやGメンによる聞き取り調査の結果を公表している。 経済産業省は業種ごとの価格転嫁の状況を分析し、2023年2月には価格交渉に後ろ向きな大企業の実名を初めて公表した。4段階評価で最低となって名指しされた日本郵便はただちに社内点検を実施。今後は年に1回、下請け企業と協議するよう改めた。
▽公正取引委員会とタッグ、不適切な企業を締め出し 価格転嫁を巡って中小企業庁は、公正取引委員会ともタッグを組む。公正取引委員会といえば、かつてはカルテルや談合などが摘発の中心だったが、近年は下請けいじめの撲滅にも力を入れている。 公正取引委員会は2022年12月、下請け企業との交渉に適切に対応していないとして、佐川急便やデンソーといった13の企業や団体の実名を公表した。2023年も大規模な調査を実施する予定だ。下請けいじめをする大手企業を排除するための包囲網は確実に狭まっている。