シリア・アサド政権崩壊という”大どんでん返し”が起こった理由…この先、世界にどのような影響を及ぼすのか
アラブの春への対応
2010年のチュニジアのジャスミン革命を契機に、シリアでも40年にわたるアサド家の独裁に対する国民の不満が爆発し、2011年春に抗議運動が起こった。 運動の中心は、シーア派の政権によって虐げられてきたスンニ派の人々で、次第に武装化、過激化していった。そして、「自由シリア軍」を結成し、アサド政権と対決していった。これに対して、アサド政権側は、ロシアやイランの支援を受けて対抗し、内戦となったのである。 これにスンニ派の過激派テロ組織であるイスラム国(IS)も介入したため、内戦が泥沼化していった。そのため、大量の難民が発生し、国外に避難した人は660万人、国内で避難生活を送る人は670万人と、第二次大戦後、最悪の難民となった。 2015年9月30日、ロシアはアサド政権を支援するために、ISに対して空爆を行った。ロシアの介入の大義名分は、国際テロ集団ISを壊滅させるためだということである。 アメリカでは、2017年1月にトランプが政権に就き、2018年4月にはトマホークミサイルでアサド政権側の施設を攻撃した。しかし、2019年になると、それまでのアサド政権打倒という政策を転換して、ロシアと共にIS掃討することを最優先にするとしたのである。そして、この年10月には、トランプは、シリア北東部から米軍を撤退させると表明した。 こうして、トランプ政権がシリアから実質的に手を引き、ロシアはアサド政権を継続させることに成功した。その結果、中東におけるロシアのプレゼンスが高まった。しかも、シリアから利用を認められている港は、ロシアにとっては地中海に面した唯一の海軍基地である。 シリア内戦から逃れてくる大量の難民でヨーロッパ諸国は苦労しており、ロシアの介入はシリアの安定化をもたらし、難民を減少させるとして歓迎された。 ISの活動によって、国際社会に大きな混乱が生じたのであり、その掃討という点では、アメリカとロシアの利害は一致したのである。