麻薬戦争や国連脱退発言「フィリピンのトランプ」過激な政策は真意なのか?
中国への接近をアメリカは注視
麻薬密売人に対する殺人が相次ぐフィリピンの現状を問題視した国連は、ドゥテルテ政権に対し麻薬がらみの犯罪を取り締まる際に行われる「超法規的殺人」をすぐにストップさせるよう求めた。しかし、国連からの要請に対しドゥテルテ大統領は21日、「国連を脱退して、中国や他の国々と新しい国際機関を設立する考えもある」と発言。翌日にはヤサイ外相が国連脱退の可能性を否定したものの、国連の圧力に対する不満も口にしている。ドゥテルテ政権誕生前の昨年、フィリピン国内の治安は悪化の傾向にあった。フィリピン国家警察は昨年8月、マニラ首都圏における犯罪は前年よりも60パーセントの減少を見せたが、フィリピン全土における犯罪発生件数は前年度比で46パーセントの増加であったと発表している。ドゥテルテ大統領は「国連が介入してくるのなら、犯罪の犠牲者を減らすためのアクションも起こすべきだ」と語っているが、これは本音なのかもしれない。 ドゥテルテ大統領の行動には先の展開が読めないものも少なくないが、フィリピンと中国の関係もドゥテルテ政権下でどのように変化するのだろうか。21日に「国連を脱退し、中国と新しい組織を作る」と発言したドゥテルテ大統領だが、フィリピンにとって中国は南シナ海の領有権を争う相手だ。南シナ海の領有権をめぐる中国側の主張はオランダのハーグにある仲裁裁判所によって、その大半に法的根拠は存在しないという判決が下されている。ドゥテルテ大統領は就任から間もなくして、中国に特使を派遣し、領有権問題を外交でうまく解決しようと試みていた。しかし、24日に軍基地を訪れた際には、「中国軍がフィリピンに入った際には、やつらは血まみれになる」と発言している。 有事の際には何らかの形でフィリピン軍を支援する可能性が高いアメリカとも、ドゥテルテ政権がどのような関係を構築したいのかは不明だ。ドゥテルテ政権誕生前、アメリカとフィリピンは新たな協定を結び、フィリピン国内の5か所を米軍が基地として使用できることになった。軍事的・経済的な結びつきを考えると、ドゥテルテ大統領による反米主義を煽る発言は、結果的にフィリピンにとってプラスにはならないはずだが、発言の真意はどういったものなのか。過激な発言よりも、その奥で頻繁に変化し続けているようにも思われる彼の外交政策こそが、周辺国を最も悩ます。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト