和田秀樹「60歳からでも脳はどんどん発達する」 自分の限界を決めてしまうのはもったいない
弱まった足腰で日本中を歩き回ることにどれだけの労を要するかは、決して想像に難くはないでしょう。年齢を言い訳にしなかった忠敬のバイタリティが今の地図の礎を築いたのだと考えると、感じ入るものがあるのではないでしょうか。 人生にはいくらでも形勢逆転のきっかけが転がっています。ですから、「もうこんな歳だから」とか「学歴や肩書がないから」「取り立てて秀でたものがないから」などと言って自分の限界を決めてしまうのは、とてももったいないことだと思います。
積み重ねてきた年齢と人生経験を武器に、花開くときを信じてください。諦めさえしなければ、人は何歳からだって発展し続けられるし、一生頭をよくし続けられるのです。 ■若い時より脳の働きをよくするのは十分可能なこと 意外かもしれませんが、脳はいくつになっても鍛えることができます。これまで、脳は年齢とともに衰えていくものだから仕方ない、と諦めていた方も多いことでしょう。 実際に専門家たちの間でも、20世紀まではそのように思われていました。脳の神経細胞は成人になってからは減る一方で、その後、増えることはないと思われていたのです。必然的に、大人になれば記憶力も衰えるものと思われるようになりました。
ところが2000年、ロンドン大学の認知神経学の研究者、エレノア・マグワイアー博士がこの常識を覆し、「脳の神経細胞は、大人になっても増えることがある」と報告したのです。 ことの発端は、マグワイアー博士が、ロンドン市中を走行するタクシー運転手たちの優れた記憶力に興味をもったことでした。 ベテラン運転手たちは、ロンドンの複雑な路地や裏道を詳細に記憶し、そのうえで、時間帯によって変わる道路の混み具合なども加味しながら、毎回、最適なルートを導き出しています。
その驚異的な記憶力に関心を抱いた博士が、タクシー運転手と一般の人たちとの脳の比較研究をした結果、運転手たちの脳の「海馬(記憶を司る部位)」が、一般の人たちより大きく発達していることを発見したのです。 特に長年従事している運転手ほどその度合いは大きく、運転手歴30年を超えるベテランは、海馬の体積が実に3%も増えていました。 ■脳は訓練次第で何歳からでも発達する ベテラン運転手の脳内には、緻密な道路地図が見事にインプットされています。彼は毎日、乗客から目的地を告げられるたびに、その詳細な地図を思い浮かべながらベストな行き方を想定します。