シベリア 世界最深の湖「バイカル湖」を旅する──写真家・倉谷清文
透明度も世界一のバイカル湖
イルクーツクから車でアンガラ川に沿って南東に向かった。車窓からはカラマツやアカマツの針葉樹林の合間に、時折白樺の林が流れていく。バイカル湖西岸のリストビアンカまでおよそ1時間。右手にずっと見えていたアンガラ川も広大だったが、それをはるかに凌ぐ湖面が開けてきた。対岸の雪山とは対照的に、湖の青の深さに驚く。 フィッシュマーケット近くの砂浜から湖岸に降りてみた。濃紺に見える湖からは想像がつかないほど波際の水は澄んでいる。バイカル湖はその独特の地質環境と微生物の生態系によって強い浄化作用が働いているため、その透明度は世界一とも言われている。 毎年1月ごろから湖面は凍結し、5月まで氷に閉ざされる。その厚さは1m近くになるという。人はもちろん車も走れるそうだ。3月上旬に開かれるこの氷上を走るバイカル湖アイスマラソンは、世界中から人が集まる人気の国際マラソンになっている。また世界一の透明度を持つ凍った湖の光景が観たくて、毎年多くの観光客を引きつけている。現地の人によると、凍結してから積雪に覆われる前の2月下旬が美しいという。 湖とアンガラ川の合流地点に程近い展望台に登った頃、ちょうど夕日が湖面を赤く染め上げていた。
日本人に似た民族が住むブリヤート共和国
バイカル湖はイルクーツク州と同じロシア連邦のブリヤート共和国の間に位置する。翌日、イルクーツクからシベリア鉄道に乗り、対岸側のブリヤート共和国の首都ウラン・ウデに向かった。ここは19世紀の頃、中国からモンゴル、ロシアへとお茶を運んだティーロードの拠点でもあった。 ブリヤート共和国の人口の約4分の1にあたるブリヤート人は、世界中で最も日本人に似ている民族だという。遺伝子的にも近く、日本人の起源はこのバイカル湖周辺の地ではという話を聞き、ますますこの地に興味が湧いてきた。 (写真・文/倉谷清文)