燭台、高坏…廃棄仏具がアーティストの手で「輪廻」 海外へアート作品として再販売
■技術の存続危機
高齢者と同居しない核家族化などの影響で、若いうちから先祖供養を尊重する体験のない人が増え、昔ながらの仏壇がある家が減少傾向にある。
「マンションなどの集合住宅に住む人が増え、親の家から子供の家に仏壇を移そうにも間取りが合わず、設置場所がなく廃棄が増えている」と幡司社長。「仏壇が売れないから職人の減少、高齢化、後継者不足という悪循環に陥り、技術の存続危機だ」と危惧する。
幡司社長によると、岡山市の場合、最近の仏壇の売れ行きは、家具のようなデザインや色味をしたコンパクトなモダン仏壇が9割以上を占める。「昔ながらの仏壇は一生に一度買うか買わないかという特殊性がある。20~30年前は80万~100万円台のものが売れ筋だったが、今は5万~30万円が中心。生活の中に先祖供養を含める考えが薄れてきている」と嘆く。
民間調査会社の東京商工リサーチの調査では、令和元~2年の全国の仏具小売り152社の売上高は新型コロナウイルス禍の影響もあり、515億6600万円で前年比4・4%減少。利益は3億9100万円の黒字から15億1100万円の赤字へと大幅に悪化した。
■新しい価値発信
幡司社長が廃棄仏具の海外展開を思い立ったのは約7年前。当初は廃棄になる仏壇の引き取りが増え、海外にアンティークとして売り込む計画を進めていたが、新型コロナウイルス禍で中断。昨年、顧客から「彫刻が素晴らしいのでそこだけをもらいたい」「仏具に絵を描いたら面白いのでは」との声を聞いて再始動を決断。路線をアンティークからアート作品に変更し、芸術家支援の目的も加えて、「仏具をおのおのの発想でアートに昇華してもらい、海外で販売することにした」(幡司社長)という。
今回のプロジェクトは日本の古い仏具の存在を海外に向けて発信するのが狙い。今後はネット販売や海外向けの展示会への出展を検討している。
幡司社長は「日本文化の新しい価値を知ってもらい、廃棄を考えたお客さまも専門店も双方が喜ぶ形になれば」と期待。一方、国内に向けても「『もったいない』は日本人が大切にしてきた美意識。先祖を敬う気持ちを普段から持つことで、自分の心にどんな作用があるのかに気づき、心豊かな生活に送るきっかけになってほしい」と願う。(和田基宏)