【解説】死者200人超 ハリケーン被害拡大のワケ…災害対応が“大統領選”を左右か
先月26日、アメリカ南部フロリダ州にハリケーン「ヘリーン」が上陸した。上陸後は勢力を弱めて熱帯低気圧となったが、アメリカ南部の広い範囲で記録的な雨が降り、200人以上が洪水などで犠牲となった。道路や通信の寸断は続いていて、2005年に1800人以上が死亡したハリケーン「カトリーナ」に次ぐ被害となっている。 上陸から1週間が経過しても被害の全容はわかっておらず、死者はさらに増える見込みだ。被害が集中しているのは台風が上陸したフロリダの沿岸部ではなく、600キロ以上離れた内陸のノースカロライナ州だった。災害対応は大統領選の結果も左右する可能性がある。(NNNニューヨーク支局長・気象予報士 末岡寛雄)
■沿岸部より“内陸部”に被害が集中…ナゼ?
ハリケーン「ヘリーン」による被害の特徴は、沿岸部ではなく内陸部に被害が集中していることだ。暖かい海水からエネルギーをもらって発達するハリケーンや台風は、上陸後はエネルギー源が絶たれるため勢力を弱める。事前の現地報道でも沿岸部の住民に高潮や暴風への備えの呼びかけは繰り返しされていたが、内陸部への注意喚起はそこまで高くなかった。筆者も「台風は上陸後、勢力を落とす」という常識にとらわれ、上陸地点から600キロ以上(東京から尾道までの距離)離れた場所でここまで甚大な被害が出るとは予想しなかった。 なぜ、海岸から遠く離れた内陸部で被害が拡大したのか。
■内陸部の被害拡大…気候変動と地形がポイント
<原因1>海水温の上昇 1つ目の原因が「海水温の上昇」だ。ハリケーンや台風は、海水から供給される熱エネルギーをもとに発達する。「ヘリーン」が上陸した先月26日のメキシコ湾の海水温は、平年よりおよそ2度高い30度前後。ヘリーンは上陸前の1日足らずの間で「カテゴリー1」から「カテゴリー4」へと一気に勢力を強めた。上陸直前の最低中心気圧は938ヘクトパスカル、最大風速はおよそ62メートルに達した。 気候変動による地球温暖化で海水温が上昇したことで、ハリケーン「ヘリーン」は、メキシコ湾から蒸発したたっぷりの水分を蓄えることができたのだ。 <原因2>アパラチア山脈 気候変動による海水温の上昇で、たっぷりの湿った空気が内陸部へ絶え間なく流れ込み、北米大陸南東部に広がる「アパラチア山脈」に到達した。暖かく水蒸気をたっぷり含んだ空気が山肌にぶつかって、記録的な大雨を降らせたのだ。谷間の町には周辺の山々から大量の雨水が流れ込み、ノースカロライナ州やテネシー州の集落が洪水に襲われた。 死者が70人以上となったアシュビルは、アパラチア山脈に囲まれている。四方から水が流れ込んだ上、上空からの写真を見ると、本流が増水したことで支流の流れがせき止められ氾濫する「バックウォーター現象」も起きていたとみられる。 皮肉なことに、気候変動などのデータを集めるアメリカ国立環境情報センターのデータセンターがアシュビルにあり、一部のデータ更新に影響が出る可能性があるという。