日本人が持つ「うまみ」の味覚が、“海外のSUSHI”との格差を生んでいる
安全なようで危険、手袋で作る寿司
寿司職人の手袋の着用については、今とても問題になっています。例えば、アメリカは州によって法律が違いますが、ロサンゼルスにせよ、ニューヨークにせよ、素手で寿司を握ってはいけないのです。手袋の着用が法律で義務づけられています。アメリカがそういうことをやりはじめたので、海外でも手袋の着用を義務づける国がだんだん増えてきました。 現在、問題になっているのが、手袋の着用による食中毒です。これが面白いもので、日本の寿司店は素手で握っていますが、食中毒がほとんどない。 手袋の着用による食中毒の原因は何かというと、まず一つは、手に臭いがつかなくなるから。現地の人々は魚の臭いで鮮度を判断する意識があまりないのです。 そもそもなんのために手袋をつけるかというと、自分を守るためです。例えば誰かがけがをしたときに、治療するのに医者は素手でやらないでしょう。あれは自分の感染を守っているのです。歯医者でも、手袋をつけて口の中に手を入れる。 そもそも手袋というもの自体が、寒さから身を守ったり、危険なものから自分を守るためにつける。魚の生臭さって、寿司店で一日握っているとなかなかとれません。いくら洗ってもとれなくて、電車に乗ってると嫌な顔をされるくらいです。ですので、自分の手を魚の臭いから守りたい人も手袋を使うのでしょう。でも、そういう感覚で寿司店で手袋を使われると、危ないのです。 あとは、素手だったら魚に直接触ると、あれ、これぬるっとして危ないなというのがわかります。でも、手袋をつけて間接的に触ってもぬめりなどがわかりません。そして、菌がついた手袋でほかの魚を触っていくうちに、繁殖していく。これが2つ目の原因です。 それから、手袋をつけると、手にシャリがくっつかない。普通、素手だと素人の人が握るとベタベタになりますが、手袋だとくっつかないから、手を洗わないでずっと作業ができちゃう。そうすると、いろいろなものを触ったあとに、ご飯がくっつかないから、そのままずっと作業を続けて、そのまま魚を触って菌が増えてしまう。素手がベタベタすると、気持ち悪くてすぐ洗いますけどね。これも一つの原因。 魚の菌は真水には弱いけど、手についていている細菌や台所にもよくいる細菌は、実は水が大好物です。水分とか湿度とか、10度~65度の温度を好む菌なのです。 今、問題になってるのは、家庭だと台所のスポンジからの感染による食中毒が危ないといわれています。実際はトイレの便座より菌が多いといわれています。水分があるものは天日干しをして乾かすことで、全部死滅させることができます。 一番の問題は水です。日本の寿司店で見たことがあると思いますが、寿司店は必ず、手酢をつけてまぶしながらポンポンたたいて握ります。手酢というのは水とお酢を1:1で割ったもの。お酢はPH2.0から3.0 と強い酸性なので、バクテリアを殺してくれる働きがあります。だから、寿司店は常に、手を殺菌しながら寿司を握っているのに、海外の人たちはそれを水でやっているから、菌がどんどん繁殖してしまいます。 最近では若い方が「オレ素手で握った寿司食えない」と言っているのをよく耳にします。日本の大手の会社では手袋をつけていても定期的に消毒をしていますが、海外ではそこまでやらない店もあります。 ただ手袋をつければよいと思っていて、実際にはそのまま普通にお金のやりとりも、手袋をつけたままやっている人たちもいます。見た目は安全なように見えますが、使い方や目的を間違ってしまうと、とても危険になってしまいます。
小川洋利(寿司職人)