血液と尿の検査だけで本当に「がん」を見つけられるのか…現役医師が指摘「複数がん早期発見検査」の落とし穴
■公的機関の見解をチェック 線虫がん検査以外も、日本ではすでに「アミノインデックス」や「サリバチェッカー」といった、全身のがんリスクがわかると称する複数がん早期発見検査が有料で提供されています。 アミノインデックスは血液中のアミノ酸濃度バランスから、サリバチェッカーは唾液中のさまざまな代謝産物から、がんのリスクがわかるとうたっています。それぞれ個別にみると興味深い検査方法ではあり、研究を進めてほしいのですが、やはりまだ検診としての有効性が証明されたものは一つもありません。がん検診の対象となるような症状のない人たちを対象にした検診性能を評価する大規模な研究も行われていません。 すでにお金という対価を取って検査を提供している企業にしてみたら、「自社の検査の性能に否定的な結果が出るかもしれない研究」を行わない方向へインセンティブが働きます。わざわざ手間や資金をかけて何千人もを対象にした研究を行わなくても利益が出るのですから、必要ありません。 こうした事情によって、実社会における検査性能、がん死亡率を低減する効果について十分な裏付けがないまま、漫然と検査が続けられてしまう状況が生まれます。たとえ第三者が否定的な研究を行っても、企業側はそれを無視したり、否定的な見解を提示するだけで済ませることができるわけです。こうした企業の動きが、採血一つで済むがん検診の未来を遠ざけているともいえます。がん検診は、企業の謳い文句に惑わされず、公的機関の見解を確認したうえで受けるのが賢明だといえるでしょう。 ---------- 名取 宏(なとり・ひろむ) 内科医 医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。ハンドルネームは、NATROM(なとろむ)。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』『最善の健康法』(ともに内外出版社)、共著書に『今日から使える薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)がある。 ----------
内科医 名取 宏