ロータス・エラン26Rがグッドウッドで再び風をまとう
この記事は【空力を徹底追求!シェイプクラフト製ルーフを装着したロータス・エラン26R】の続きです。 空力を徹底追求!シェイプクラフト製ルーフを装着したロータス・エラン26R ーーー ロビンはブリストル生まれの建築家で、ロンドンで従業員100人の設計・建築会社を経営し、大物有名人の依頼を受けて、地下の大規模な宴会場やスカッシュコートなどを手がけている。仕事の傍ら、ジェンセンFFやメルセデス・ベンツ300SEL 6.3といった興味深い車をいくつか楽しんできたが、サーキット走行会でロータス・エリーゼやポルシェ993RSに乗ったことで、若かりし頃のもっと利己的な車への情熱が甦ったという。こうして必然のようにロビンはレースを始めた。まずは2007年にケータハム・アカデミーで学び、これを卒業すると、次がロータス・エリート(現在も所有しており、ミュルザンヌ・ストレートで138.4mphを記録した)、その後はDOHCのエルヴァ・マーク7、ロータス・マーク6、フォード・ファルコン、“普通”のエランが続いた。今やグッドウッドの常連で、911やMGBでスパも走行している。 ●オーナーのロビン・エリス 実はロビンは、まだリチャード・ソロモンズが所有していた頃に、このエランでグッドウッドを走ったことがあった。その後2020年に、ロンドンの展示場オリンピアで、ディーラーのダンカン・ハミルトンROFGOのブースで販売されているのを見つけたのだ。ダンカン・ハミルトンのサイモン・ドラブルと話をしたあと、あれこれと頭をひねった末に、ポルシェとエランを手放して、晴れてAUT 173Bの長いオーナーのリストに名を連ねたのである。 「私が購入したのは2020年2月で、その直後にロックダウンが始まった。あの年は短いシーズンになったけれど、グッドウッド・スピードウィークには出走できた。おそらくTTレースにエランが出たのはあれが史上初だろう。グリッドで4気筒がこれ1台だったのは間違いない。私はデイヴィッド・ブラバムと組んで17位だった。立派なリザルトだよ。大きくてパワフルな魚がひしめく中で、私たちは小魚にすぎなかったからね」 「あの時点ではジオメトリーがきちんと決まっておらず、今ほどの走りではなかった。今はアンディー・ウルフに徹底的に見てもらった。すべてクラック検査をして、彼がいつもエランでやるように手を加えてもらった。おかげで温厚な楽しい車になったよ。速いけれど、ドライバーの面倒をしっかり見てくれる。非常に予測しやすく、ヒヤリとすることはまずない。たとえ普通なら怖い思いをするようなことをしてもね」 「一度ムジェロでスピンしたことはあるが、エランの名高いしなやかな乗り心地はそのままで、たいていはドライバーの味方をしてくれる感じだ。前に所有していたエランと比べると、力強さも安定感も明らかに増していて、あらゆる面で大きな自信がわいてくる」 こうした自信がよいリザルトにつながっている。グッドウッドをはじめ好成績は数多いが、現時点で最高の栄省は、何といってもイタリアのモデナ・チェントオーレでの初優勝だ。2023年10月に、熱心なヒストリックレーサーで、レースロジックの創業者で社長のジュリアン・トーマスと共に成し遂げた。モデナ・チェントオーレは4日間にわたるトップイベントで、イタリアで最も有名なサーキット4箇所でのレースに加え、9回のスペシャルステージがあり、走行距離は959kmに上った。度胸がなければ挑めないラリーだ。 「参加を決めたのは、公道レースイベントに一緒に出れば楽しいだろうという程度の気持ちからだった。ところが初日を終えてみたら、総合2位につけているじゃないか。トップはフィリップ・ウォーカー (たしかこのイベントで5勝している)と、GT40に乗ってスパで優勝したばかりのマイルズ・グリフィスの組だった。『なんてこった、これは真剣にやるべきかもしれん」と思ったよ。私たちは2日目を終えた時点でトップに立ち、最後までそれを守りきった」 「真剣な気持ちでは臨んだけれど、何かで優勝できるとは思ってもいなかった。いろいろ楽しむ計画もしていたのに、優勝の可能性が出てきた途端、それどころではなくなったよ。最終日になると、私は完全に震え上がった。勝利がはっきり見えてきたからだ。まだ公道ステージ3つとサーキットレースが2つあって、後続との差はたった20秒。残り少ないステージでミスをする余地はまったくなかった」 ロビンはその日以来エランに乗っておらず、メンバーズ・ミーティングに向けた準備としてグッドウッドで久しぶりに走行する際に、私たちは写真撮影を行った。実をいえば、ロビンにもグッドウッドにも非はない手続き上の問題で、私はその日、エランに乗ることができなかった。エランの熱烈なファンだけに、私はすっかり打ちひしがれた。ほかの26Rをドライブしたことはあるし、あのイアン・ウォーカー・レーシングの“ゴールドバグ”でグッドウッドを走った経験もあるが、それでもガックリきた。 正直なところ、たとえほかの26Rとの大きな違いを感じられたとしても、それはバリー・ウッドのルーフによるものというより、アンディー・ウルフのチューンによるものだろう(何しろエランのエンジンから185bhpを引き出したこともあるといわれている人だ)。標準の26Rと最高速を直接比較しない限り、この流線型の軽量な合金製ルーフにどれほどの効果があるのか、本当のところは誰にもわからない。それでもやはり悔やまれる。 これまでに3台の純正26Rをドライブした私の経験からいえるのは、ロビンが所有するエリートに比べれば努力がいるだろうということだ。それは、エリートが指先で操ってもつま先立ちで踊るような車だからであって、26Rの足回りや4気筒に、ドライバーがねじ伏せなければならない難しさがあるからではない。常にステアリングを動かし続ける必要はあるが、自分とは別の存在に反応するというより、自分の体の延長のように非常に自然な感覚で操ることができる。レーシングカーにしては、限界ぎりぎりまで信じられないほど温厚で、たとえ限界に達しても予測しやすい挙動を示すので、不意打ちを食らうことがない。ほとんど直感的にドライブできて、車に追い立てられて速度が上がるというより、勇気づけられて速く走ることができる車なのだ。 グッドウッドでのテストデイを終えたロビンは、再びシェイプクラフトで走った喜びで満面の笑みを浮かべながら、こう締めくくった。「小さいけれど、どこをとっても本当に特別な車だよ。ルックスも素晴らしいし、今では飛びきりいい走りをする。ドライブするのが本当に楽しい。知れば知るほど、与えてくれるものが増えていく。これこそ走る喜びの好循環だ」 『Octane』が取材したあとも、ロビンとシェイプクラフトの活躍は続いた。5月には、再びジュリアン・トーマスと組み、GT&スポーツカー・カップのシチリア島でのレースで優勝。6月には、エキップ・クラシック・レーシングがシルバーストンで開催したロータス26Rの60周年記念レースで、3列目スタートを切り、7位でフィニッシュ。エラン33台が出走し、そのうち28台が26Rだったという。 AUT 173Bの元々分厚いヒストリーファイルは、ずっしりと重くなる一方だ。それは、ショッピング用の車から派生したエンジンでスーパーカー並みのパワーウエイトレシオを誇る、この美しい小さなロータスの軽さと、鮮やかな対比を成している。 編集翻訳:伊東和彦 (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) Translation: Megumi KINOSHITA Words: James Elliott Photography: Jayson Fong THANKS TO Goodwood Motor Circuit and Robin Ellis, who is selling the Elan Shapecraft via simondrabblecars.co.uk.
Octane Japan 編集部