10月の消費者物価指数は「前年同月比+2.9%」…「物価上昇率2.0%」を上回っているのに、日銀が「超低金利政策」をやめないワケ
日銀の「物価上昇率2%」の数値目標の「限界」
日銀は2013年以降、「物価上昇率2%」を目標として、大規模な金融緩和政策をとってきました。金利をきわめて低い水準に抑えることで、企業や個人が融資を受けやすくし、また、銀行預金を株式等への投資へと振り向けるためです。また、円の価値が下がって海外からの投資が活発化する効果も期待されていました。 日銀には、この金融緩和政策によって、企業の業績の向上につながり、物価が上昇し、賃金も上昇するという目論見がありました。 前述したように、消費者物価指数は「物価上昇率2%」を大きく上回っており、その状態が継続しています。したがって、数字上は目標が達成されているということになります。しかし、日銀は、当面、金融緩和政策を継続するとしています。なぜでしょうか。 日銀が設定した「物価上昇率2%」という目標は、前述したように、企業の業績の向上、物価の上昇、賃金の上昇が伴っていることが前提条件になっています。 ところが、現在の物価上昇は、2022年3月に始まったロシアのウクライナ侵攻による世界的な資源価格・食料価格の高騰と、昨今の円安の影響によるものです。企業の業績の向上によるものではありません。また、物価上昇に労働者の賃金が追いついていません。 このように、消費者物価指数を基準とした「物価上昇率」については、その背景にどのような事情があるのかを見極める必要があります。また、「コアコアCPI」の数値からはエネルギー価格が値下がりしているように見えますが、それはあくまでも政府が行っている価格抑制対策によるものです。 日銀の植田総裁は、昨今、再三にわたり、物価上昇に賃金の上昇が伴うことが重要であると強調しています。つまり、「金利の抑制」⇒「融資、投資の促進」⇒「企業の業績向上」⇒「物価上昇」⇒「賃金上昇」という流れができなければならないということです。日銀は7月と10月に相次いで長期金利の上限許容度を引き上げる「イールドカーブ・コントロールの柔軟化」を行いましたが、基本的な方針は変わっていません。 そんななかで、「物価上昇率2%」という数値は、事実上あまり意味をなさなくなってきているといえます。 他方で、昨今の記録的な円安は、多くの国が「利上げ」を行うなか、日本が「超低金利」を維持しているため「内外の金利差」が発生していることによるものです。それが、物価高騰を招き、国民生活に重大な影響を及ぼしているという面があります。 超低金利を当面維持するにしても、方針転換して利上げに転じるにしても、日銀は、難しい政策判断を迫られています。
THE GOLD ONLINE編集部