『魔女の宅急便』から『リトル・マーメイド』『水星の魔女』まで──「魔女像」の変遷が映し出すもの
マイノリティと魔女、重なる歴史。単数でない魔女が見たい
ここで最後に柚木麻子の小説『マリはすてきじゃない魔女』(2024年、エトセトラブックス)を紹介したい。この小説は、ここまで書いてきたようなさまざまな魔女たちと、魔女たちに願いを託してきた人々の有り様を、ひとまとめに描く作品だ。 舞台となるのは、すてきな魔女と人間たちがともに暮らす社会だ。そこにはレズビアンの魔女や、魔女になりたいトランスジェンダーが登場し、マイノリティの戦いの歴史と魔女の歴史が重ねられる。魔女は人間に認められるよう努力をしたが、人間のためにがんばるすてきな魔女像に同化しなかった魔女は、恐れられ排斥されている。それはマイノリティがマジョリティにとって良きマイノリティになるように求められてきたことを思い出させる。 小説の主人公マリは、そんななかで自分のために魔法を使い、人々を驚かせる魔女の子どもだ。マリの姿勢は、人に認められたり、試練を受けて良い人間に成長する魔女の息苦しさを思い出させる。マリはやがて社会から恐れられる「すてきじゃない魔女」と出会い仲良くなり、やがて二人はすてきな魔女しか受け入れない社会を変えていく。 そこには恐れられる魔女の持つ力と、魔女を恐れる社会の差別性がともに描かれ、そのうえで同化するだけではない魔女の受容が語られていく。恐ろしい魔女も、フェミニストとしての魔女も、間違える魔女も、社会に同化する魔女も、全部受け止める。 『マリはすてきじゃない魔女』では、それはキャラクターたちが個々に抱えるマイノリティ性と抑圧──トランスジェンダーであったり、レズビアンであったり──の存在や歴史を描くことで実現されていた。それぞれ個別に異なる抑圧の状況と、共通する抑圧への抵抗のシンボルとしての魔女の姿だ。そんな単数ではない複数の魔女たちの姿を、もっといろいろなところで見かけたい。
テキスト by 近藤銀河 / リードテキスト・編集 by 今川彩香