『魔女の宅急便』から『リトル・マーメイド』『水星の魔女』まで──「魔女像」の変遷が映し出すもの
現代において、さまざまな文脈を持つ「魔女」という存在。かつては魔女狩りとして女性を罰する口実として使われた歴史から、フェミニズム運動では象徴のように語られることもある。アニメや映画など物語で描かれる「魔女」は、現代社会における女性はじめマイノリティへの視線とも重なる部分があるのではないだろうか。魔女に向けられる憧れや恐れはどんな意味を持つのか? 典型的な悪役魔女にある背景とは? ──『魔女の宅急便』をはじめ、『マレフィセント』『アナと雪の女王』などのディズニー作品、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』『機動戦士ガンダム 水星の魔女』などの作品から、美術史家でアーティストの近藤銀河が映画やアニメのなかの魔女像について考える。 【画像】本日、21時30分から金ローで放送『魔女の宅急便』より
罰する口実としての「魔女」。ジェンダーと身体を縛る幻
魔女と聞いて、あなたはどんなイメージを持つだろうか。荒地に棲む恐ろしい魔女。人を喰う魔女。優しい僻地の魔女。社会に溶け込み人々の役に立つ魔女。家父長制を呪う魔女。 魔女のイメージはあなたが触れてきた創作や、出会ってきた人々、考えてきた物事によって異なるかもしれない。 ただいずれにしても、魔女は大きな力を持つようだ。魔女は他の人ができない技を持ち、知識を持つ。 魔女とはなんだろうか。『キャリバンと魔女―資本主義に抗する女性の身体』(小田原琳、後藤あゆみ訳、以文社、2017年)の中で研究者のシルヴィア・フェデリーチは魔女狩りを封建制から資本主義へと移行する時期に西洋で行なわれたものだと位置付ける。子どもを産み育む女性という像から外れた人々を、魔女として罰することで、女性とされる人々の身体を労働力を産み育てるために国家に奉仕させようとしたのが、魔女狩りであったのだ。 知識を持ち身体を管理する女性、あるいは資産があったり、再生産労働に入らなかったり、そうした人々を罰するための口実が魔女だった。そして彼女たちは国家が恐れるような、大きな力を持っていた。 魔女はその意味でイメージの中の、制度の中の幻影でもある。そこでは生まれ持った身体の機能がその人の本質であるとみなされ、その架空の本質から外れた人々は、魔女と勝手に規定され罰される。魔女とはそのようにジェンダーという役割を本質化し、身体と結びつけるための幻でもあった。