「スーツが義務の会社」が与える不要な威圧感...伝統的な日本企業の閉塞感の原因
また、世界の幸福度ランキングでは日本がG7で最下位になるなど、日本の幸福度の低さが問題視されてきた。しかし、内田教授によると幸せの研究は欧米がけん引してきたことで、日本的な幸せにあまりスポットが当てられてこなかった背景があり、それがランキングにも影響していると分析します。 「今までの幸福感の研究はアメリカ主導で行われてきたところがあります。アメリカの幸福感というのは私は"獲得的"と表現するのですが、自尊心が高く自分の価値を外に示すことが幸せとされています。そのような文化の中では、小学生の頃から自分の価値を周りに表現するトレーニングをさせられます。反対に日本の小学校では、自分よりも周りとの調和が重視されます。 日本人は大人になっても他者とのバランスが大事にされ、それが社会の安寧に繋がっていると考えられます。現在、世界的には北米的な幸福観が主流ですが、競争や周りより目立たないといけないことは日本人にとってプレッシャーになっているように思います。」(内田さん)
「風通しの良い職場」を目指して服装も自由に
コクヨでも社員同士の人間関係構築を重視して、様々な取り組みが実践されているという。 「コクヨではどんなことも自分たちで実験してみることが、会社のDNAとして受け継がれています。 人間関係の構築においては、風通しの良さが心理的安全性につながると考え、まずオフィスをリニューアルしました。今回の会場である2Fのホールと1Fのカフェやワークスペースをオープンにして、地域住民や近隣の会社の人が自由に出入りできるようになっています。外部の人を取り込むと社員の仕事の仕方がどう変わっていくのか実験をしているんです。」(黒田さん) オープンなスペースがあることで、異なる事業部同士のコミュニケーションの活性化にも一役買っているそうだ。 内田教授は"風通しの良い"ということは、"ゆるい繋がり"があることだと語った。 「ゆるい繋がりというのは、出入り自由で、一度誘いを断ったからといって排除されないような柔軟な関係性です。規範的とは対照にあるものです。」(内田教授) しかし、コロナ以降にリモートワークが増えたことにより、社員間の関係性が築きにくくなったことも指摘されている。コクヨでは以下のような取り組みがなされている。 「コクヨはオフィスに出勤する頻度を、社員の人たちそれぞれに決めてもらってます。週に何回出社するかを3パターンくらい用意して、仕事の内容に応じて上司と話し合った末に、自分はAパターン/Bパターンですと宣言してもらいます。そうすることで、会社に来るか来ないかが互いに見えるようになっています。」(黒田さん) これに対して内田教授は、リモートワークという会社が管理しづらい状況の中で、社員に勤務体系を選んでもらうのは会社側からの信頼を示すことにつながると分析した。 また、コクヨの風通しを良くするための実験は、意外なところにも派生し効果を得られているという。 「コクヨでは社員のドレスコードをなくしました。元々全くカジュアルがNGというわけではなかったんですが、ピンヒールやダメージジーンズがダメ...などの縛りが厳しくありました。でも今は自分たちの判断でTPOをわきまえた服装を着てもらうことにしています。私も今日はジャケットを羽織っていますけど、普段はスウェットを着ることも多いです。 ある時、私が珍しくスーツを着ていると女性社員から『なぜスーツを着ているんですか』と聞かれました。なぜそんなことを言われるのか、詳しく聞いてみると『社長がスーツを着ていると他の男性社員もスーツに戻ってしまうから』とのことでした。今までは男性社員ほぼ全員がスーツ姿でいることが当たり前でしたが、それがいかに威圧感を与えていたのか、言われて気が付きました。 今では髪色の明るい人や短パンで来る人など色々いて、社内の空気感にも良い変化を与えていると感じます。」(黒田さん)