このまま膨張し続けたら、宇宙はどうなってしまうのか…「最悪のシナリオ」と「人類に残された希望」
ダークエネルギーとは何か?
宇宙定数を素粒子論の言葉で表現するなら、未知のスカラー場が、そのポテンシャルエネルギーの底に落ち着いている状況だと考えられています。ポテンシャルエネルギーとは、スカラー場が固有にもつ位置エネルギーのようなエネルギーのことで、低いエネルギー状態に行けば行くほど安定であることを意味します。ダークエネルギーとなる未知のスカラー場の正体は、実験的にも、観測的にも、まったく明らかになっていません。そのため理論上は、その存在を仮定して宇宙モデルをつくることになります。 ここでは、ダークエネルギーとなるスカラー場を「」と呼びましょう。こののポテンシャルエネルギーの底のエネルギー密度の大きさが、重要なのです。エネルギースケールでは、約0.002eVです。ポテンシャルエネルギーもしくは、エネルギー密度で表すならば、約0.002eVの4乗、つまり約16eV⁴の1兆分の1となります。もっと想像をたくましくした場合、必ずしも、現在ポテンシャルエネルギーの底に落ち着いていなくてもよいという考え方も可能となります。つまり、ポテンシャルエネルギーの底では、特別なエネルギースケールなどはなくて、エネルギー密度は確かにゼロとするのです。 しかし、将来そこに落ち着けばよいと考えて、今はポテンシャルの途中をゆっくり転がり落ちていると解釈するのです。つまり、宇宙定数ではなく、動いているダークエネルギーというより広い概念を導入することになります。そして0.002eVの4乗は、ゼロに向かう過渡期のポテンシャルエネルギーの値と解釈します。そうすれば、現在の宇宙が偶然、このエネルギースケールをとっているだけで、新しいエネルギースケールを説明しなくてもよいという解釈となります。このスカラー場は、光子、ニュートリノ、バリオン物質、ダークマターとも違う、第5の成分という意味で「クインテッセンスモデル」とも呼ばれます。 そして、そのゆっくり動く度合いは、理論と観測から厳しい制限を受けます。ポテンシャルの式中にの逆べき、1/の項が現れる理論モデルの場合、宇宙膨張からくる摩擦力とポテンシャルを落ちていく力が釣り合ってゆっくり転がるモデルとなります。そのため、最も無理のない自然なモデルだと考えられました。これを「トラッカー場モデル」と呼びます。 しかし、最新の観測より、トラッカー場モデルは、ファイが速く動きすぎるとして棄却されました。現在では、その真空に落ち着く直前(フリージング)か、別の真空から動き始める瞬間(ソーイング)かの、2つのモデルが観測から許されています。 これまで、スカラー場のモデルと書いてきましたが、理論的には何一つ確定していません。強いて候補を挙げるなら、前述の軽いALP(正確な分類では、スピンの場ですが、鏡に映す変換により場の値の符号がマイナスになる擬スカラー場です)のような量子場かもしれません。しかし、その約0.002eVというエネルギースケールをもつポテンシャルについては、第一原理から導かれるわけではなく、仮定するしか、現在は方法がありません。前述のALPでも、理論的にはそのエネルギースケールが必然ではありません。また、繰り返しますが、重力を修正したとしても、このエネルギースケールのエネルギー密度を第一原理から自然に導出するわけではないので、さらにエネルギースケール自体について仮定を追加する必要があるというのが現状です。つまり、重力を修正しても解決されていないのです。