イスラエル、シリアに激しい攻撃 安全保障環境改善も油断できず 反体制派へメッセージも
イスラエルはアサド政権崩壊を受け、シリア各地の軍事施設に激しい攻撃を行った。パレスチナ自治区ガザとレバノンの戦闘に続いてシリアにある対イスラエル攻撃の拠点を破壊し、自国を取り巻く安全保障環境を改善する狙いがある。攻撃にはアサド政権を打倒したシリアの反体制派や、宿敵イランに対するメッセージも込められている。(中東支局 佐藤貴生) イスラエル軍はアサド政権が崩壊した8日にシリア攻撃を開始。48時間のうちに対空砲台や兵器製造拠点など350以上の標的を戦闘機が爆撃した。 首都ダマスカスや中部の要衝ホムスに加え、地中海に面する北西部ラタキアでは海軍施設も破壊した。イスラエルのメディアによると、軍はアサド政権の軍事能力の70~80%を破壊したとみている。 イスラエルのネタニヤフ首相は「シリアの内政に干渉する気はない」とし、「残された軍事能力がジハード(聖戦)主義者の手に渡らないようにするため」に攻撃したと述べた。 アサド政権崩壊の一因は親イラン民兵組織ヒズボラがイスラエル軍の猛攻で大打撃を受け、シリアに兵力を送って援護する余力がなかったことだとされる。 イスラエルにすれば、政権崩壊は間接的には自分たちが実現したもので歓迎すべきことだが、同時に新たな懸念も芽吹いた。国際テロ組織アルカーイダの影響を受けた「シリア解放機構」(HTS)が次期政権に大きな影響を及ぼしかねないことだ。ネタニヤフ氏の発言もHTSを念頭に置いたものとみられる。 ネタニヤフ氏はまた、「シリアの新体制と正しい関係を作りたい」としたが、新体制がイランとの関係を再構築したり、イラン製などの兵器をヒズボラに送ったりした場合は攻撃すると警告もした。HTSにイランとの関係を絶つよう求めたと受け取れる。 イスラエルの閣僚からは、対シリア攻撃は限定的で一時的なものだという発言が聞かれる。しかし、占領するゴラン高原の非武装地帯(DMZ)を越えてシリア側に進軍したと報じられ、国際的な懸念も高まりつつある。 イスラエル軍は今秋、「限定的」なものだと断ってレバノンに地上侵攻したが、激しい攻撃を行ってヒズボラのみならず住民にも多大な犠牲が出た経緯がある。