トランプは「冷戦2.0」に勝てるのか?外交での3つの選択肢
冷戦2.0時代の新たな巻き返し政策の一環なのか
外交の世界で共通の敵に侵食されそうな国々が取る戦略には、積極的に反撃に出る「巻き返し」、敵の拡大を抑える「封じ込め」、そして「緊張緩和」の3つの選択肢がある。 40年代後半、共産主義の拡大に対抗すべく巻き返し派と封じ込め派が激論を繰り広げた。ダレスは当初は巻き返し政策を支持し、東欧や朝鮮半島で一時的に採用された。 だが第3次世界大戦勃発への懸念から、トルーマン政権とアイゼンハワー政権は封じ込め政策へと後退。ダレスはこの戦略を徹底的に推し進めた。 その後、ソ連が弱体化するとレーガンは再び巻き返し政策に切り替え、最終的に冷戦に勝利した。 ところがその直後のブッシュ政権からオバマ政権に至る政権は中国に対し、巻き返しと真逆の「関与」政策を取った。 これは60年代後半にニクソン政権が中国とソ連を引き裂く目的で用いた戦略だが、ソ連崩壊後も継続したことはアメリカ最大の失策で、中国の全体主義に「第二の命」を与えてしまったと、多くの専門家はみる。 1期目のトランプは中国製品に最高25%の関税を課す関税戦争を仕掛け、関与政策を撤回。2期目は関税を60~200%に引き上げるとしている。 これは冷戦2.0時代の新たな巻き返し政策の一環なのか。トランプには関税以外にビジョンと目標、それを補完する戦略や具体的なロードマップがあるのだろうか。 【「悪人役」で実利を得る】 MAGAの論理では、アメリカはかつて最強の超大国だったが、他国の紛争に関与しすぎて自国経済の中核の製造業が空洞化し、弱体化したとされている。 敵対勢力との対立が再燃し同盟国の足並みがそろわないなか、弱体化の影響は甚大で、アメリカを再び偉大な国にするには主要な敵(中国とロシア)との戦いだけに資源を集中させるべきだ──。 この考えは、トランプ政権1期目に国防総省が発表した2018年版国家防衛戦略で明確に示された。 20年にはマーク・エスパー国防長官が中国をアメリカの「ペーシング脅威(仮想敵)」、つまり経済、技術、政治、軍事など多方面で自国の不安定な優位性を揺るがす能力と意図を持つ唯一の大国だと初めて明言。 優位性が揺らぐ事態を防ぐため、国防総省は軍に対し「敵によるアメリカの国益侵害を抑止する」「同盟国を軍事侵略から守り、抑圧に対抗できるよう支える」「共同防衛責任を公平に分担する」といった目標を示した。 さらにトランプはNATO加盟国に「公平な分担」、すなわちアメリカに頼らずにロシアを抑え込むよう圧力をかけた。 狙いは中国との戦いに集中すること。 トランプは米軍の縮小をちらつかせる「悪人役」を演じ、「善人役」のジョージ・W・ブッシュやバラク・オバマにはできなかったことを実現した。 利己的な孤立主義と批判されがちなトランプだが、公平に見ればその批判は当たらない。 最も物議を醸すのはウクライナ戦争への対応だろう。トランプは戦闘激化の回避と早期停戦を促し、領土の譲渡を含んだ平和的解決を提案している。 批判派はトランプがプーチンにウクライナを差し出すとみているが、中国とソ連を引き裂いたニクソンの戦略の再現という見方も可能だ。 ウクライナ戦争の迅速な終結によりロシアが西側との関係を修復し、過度の対中依存を終わらせれば、西側にとっては多大な利益となる。そうなれば米中間で戦争が勃発しても、ロシアは中立の立場を取るだろう。 この戦略的思考は国際関係におけるリアリズム学派の主張とも一致する。 トランプと彼のチームが冷戦2.0を勝ち抜ける戦略家かどうか、その答えは間もなく明らかになる。 練乙錚 YIZHENG LIAN 香港生まれ。米ミネソタ大学経済学博士。香港科学技術大学などで教え、1998年香港特別行政区政府の政策顧問に就任するが、民主化運動の支持を理由に解雇。経済紙「信報」編集長を経て2010年から日本に住む。