「がん治療本の決定版」「後悔しない選択のために」目を引く帯のコピー 医師たちが発信を続ける理由
「標準治療」は「最善の治療」
本の編集に携わった国立がん研究センター中央病院の副院長の山本昇さんは、新しい抗がん剤の研究に取り組みながら、がん診療にもあたっています。 「がんの治療法も、この10年で大きく進化しています。選択肢も増えており、患者さんも治療に迷うと思うんです。でも、やはり『標準治療』を受けてほしい、という思いです」と話します。 「標準治療」は、現時点で根拠がある〝最善の治療〟のことをいいます。 しかし山本さんは「標準治療というと『真ん中ぐらいの治療かな』って思ってしまう患者さんが多いんですよね。『一番いい治療にしてください』と言われるので、それが標準治療ですよと説明しています」と話します。 中釜さんは「本屋さんの〝医療〟の棚にも、センセーショナルなタイトルが並んでいて、やっぱり売れますよね。稀にそういうケースも実際にあったのかもしれませんが、本当に特殊な例でほかの方には当てはまらないこともあります」と話します。 「その出版に関しては止めようがないので、やっぱりわれわれは科学的根拠のしっかりした情報を発信し続けて、困ったらこの本やがん情報サービスにアクセスしてくださいということを伝え続けるしかないのかなと思っています」と語ります。 本の内容は、さまざまな標準治療についてかみ砕いて説明するほか、ゲノム医療といった最先端の治療や、セカンドオピニオンの求め方なども紹介しています。 中釜さんは「本をきっかけに、自身や家族の受ける治療がどんなものか知ってもらったり、がん治療の選択について落ち着いて考えたりする材料のひとつになれば」と話します。
コメディカルと連携してコミュニケーション
しかし、忙しそうな医師に治療の不安を打ち明けていいのか、セカンドオピニオンを打診していいのか、仕事との折り合いについて相談していいのか……。 患者と医師のコミュニケーションは、なかなかうまくいかないこともあります。 山本さんは診療上で自身が心がけていることを「できるだけ早く、その場の相手の雰囲気を感じ取って、相手に目線を合わせ、相手のペースで説明することが大切だと思っています」と話します。 また、看護師やソーシャルワーカーといったコメディカルから、フィードバックをもらうこともあるそうです。 「病気の宣告を受けた方は、頭が真っ白になると思うんですよね。そんな時にお話ししても、なかなか全て理解するのは難しいと思います。スタッフに『患者さんはここが心配だとおっしゃってました』『ここが分からないと話していました』とフォローしてもらうことで、医師と患者さんのコミュニケーションは成り立っていると思います」