南海電鉄、なぜ「通天閣」を買収? “大阪のシンボル”再生に向けた都市開発と鉄道事業の未来を読み解く!
再開発空間の“居場所”喪失
南海電鉄が積極的な動きを見せる背景には、大阪の都市構造が大きく変わろうとしている現状がある。 2025年の大阪万博に関しては、準備の遅れや運営費の増大など、さまざまな課題が指摘されており、開催前から厳しい評価を受けている。それでも、万博はあくまで大阪の都市開発のひとつの通過点に過ぎない。 例えば、なにわ筋線はもともと万博後に夢洲で開業予定のIR(統合型リゾート)へのアクセス手段として構想されてきた。IRの開業は2030年を予定しており、それに向けて鉄道網の整備も続けられる見通しだ。このように、万博の結果にかかわらず、大阪の都市改造は長期的に進行していく。南海電鉄の取り組みは、こうした大阪の構造変化を見据えたものだといえる。 一方で、都市改造の影響による歪みもあちこちで見られる。これは東京でも同じだが、再開発によって生まれた新しい空間には、落ち着ける場所がないことが多い。 例えば、無料で座れるベンチがほとんどないのが実情だ。筆者(昼間たかし、ルポライター)が供用開始直後のなんば駅前広場を訪れた際、高島屋の立派な建物に囲まれた美しい風景はあるものの、一息つける場所がなく、ただ歩くだけの通路に過ぎないと感じた。また、大阪の再開発では、 「あいりん地区」 のように、もともとその地域で暮らしていた人々との摩擦が問題となるケースもある。 再開発は街の利便性や安全性を高めるという点で確かに効果的だ。しかし、無料で休める場所がない、居心地の悪い街になったり、弱い立場の人々を排除するような街づくりを進めたりするのは避けるべきだろう。
昼間たかし(ルポライター)