南海電鉄、なぜ「通天閣」を買収? “大阪のシンボル”再生に向けた都市開発と鉄道事業の未来を読み解く!
基幹事業と新収益源の課題
それでも、こうした沿線の構造的な課題を抱えながら、南海電鉄の業績は堅調だ。2024年4月に発表された2024年3月期連結決算では、コロナ禍からの回復もあり最終利益が前期比 「63.6%増」 の239億円を記録している。この好調を支えているのが関西空港に直結する空港線だ。空港と市内を結ぶ特急ラピートの乗車率は6割を超え、インバウンド需要の回復が収益を押し上げている。 決算資料を見ると、分野別の営業収益は次の通りだ。 ・運輸業:1018億1700万円(前期比6.6%増) ・不動産業:531億4000万円(19.1%増) ・流通業:267億6000万円(13.4%増) ・レジャー・サービス業:431億400万円(8.2%増) ・建設業:447億9200万円(2.6%増) ・その他の事業:40億8900万円(38.0%増) この数字から、鉄道・バス事業が全体の約6割を占める基幹事業であることがわかる。ただし、人口減少が進むなかで収入減は避けられない。一方、不動産事業は全体の約2割を占めるまで成長しており、第二の収入源になっているが、景気変動の影響を受けやすい特性がある。他の事業分野も含めて、安定した収益構造をどう築くかが課題となっている。 こうした経営課題に対応するための取り組みが「グレーターなんば構想」だ。この構想は単なる不動産開発にとどまらず、商業、観光、オフィスなど多様な機能を組み合わせて、景気変動に強い収益基盤を目指している。その一環として行われた通天閣の買収も、観光や商業施設を強化する戦略の一部といえる。
なにわ筋線開通で変わる空港アクセス競争
南海電鉄の構想を加速させる要因のひとつに、 「なにわ筋線の開通」 という新たな競争環境がある。この新しい路線は、大阪駅からJR難波駅を経由して新今宮駅に至るもので、南海電鉄の牙城であるなんばエリアにJRの影響力が及ぶ可能性があるだけでなく、場合によっては素通りされる懸念もある。 特に南海電鉄が警戒しているのは、この新線開通による 「関西空港アクセス競争の変化」 だ。新線が開通すれば、JRの特急「はるか」が新線経由で大阪駅まで乗り入れ可能になり、現在南海電鉄が優位に立つ空港アクセスの状況が大きく変わる。利用客は、大阪の主要ターミナルである大阪駅ともなんば駅ともどちらからでも空港へアクセスできるようになる。さらに、大阪駅エリアではうめきた再開発などの大規模プロジェクトが進行しており、このままでは南海電鉄の収益源である空港アクセス需要が大阪駅方面に流出する恐れがある。 こうした競争環境の変化を見据え、南海電鉄は通天閣の買収という戦略的な一手を打った。この買収は 「単なる観光施設の取得」 にとどまらない。通天閣は年間200万人以上が訪れる大阪有数の観光地であり、新世界エリアの象徴的な存在だ。これを取得することで、なんば、新今宮、新世界エリアを一体的に開発・運営する基盤が整う。大阪駅周辺との競争を念頭に置き、なんばエリアの魅力を最大化するための戦略的な判断といえる。