WBC侍J米国行きの裏に千賀と小林のフォークを巡る信頼感
配球において「千鳥格子」と呼ばれるものがある。つまりストレート、変化球、ストレート、変化球と交互に投げさせ、パターン化して狙われるという悪い例だ。一方、「続きの配球」というものがある。もうこないだろう、もうこないだろう、の裏をかく配球術で、名捕手と言われた前中日監督の谷繁元信氏が得意としたリードである。この日の小林のフォーク使いは、まさに、この「続きの配球」だった。 だが、走者を置いてのフォークの要求には捕手の側に相当の勇気がいる。ワンバウンドになる可能性の高いボールを止めることができなければピンチを広げ、得点を献上することにもなりかねない。リスクがある。 それでも小林は3回、三塁に走者を置いて、1球、2球とフォークを要求した。 小林に「フォークの要求は怖くないのか?」と聞くと、丸刈りの頭をさすって「怖いですよ、そりゃ」と笑う。「でも、ピッチャーに一番いいものを出してもらうのが、僕の仕事ですから」。 事前のミーティングで小林は、こういう話を千賀にしているという。 「思い切り腕を振って、自信のある球を使ってくれ。僕が止める」 千賀も「高めに抜けるよりもフォークはワンバウンドになっていい。フォークというより、低めをつかうこと」を意識していた。2-1、3-1という、必ず投手がストライクをとりにくるバッティングカウントでいわゆるゴロゾーンを使えた。 「しっかりとバッターを見ることができたんでしょうね。バッティングカウントでゴロを打たせたことが、去年よりも成長したところかもしれません」 千賀が、「もう1イニングだけと思って全力でいった」という5回に小林は、ガラっと配球を変える。フォークを1球も使わずストレートで押したのだ。クリーガーにはすべてストレートで3球三振。「続きの配球」で刷り込んだお化けフォークを逆手にとった。この日の千賀の最速は153キロだった。 わずか1安打の5回無失点。 千賀と小林。セ、パに分かれてプレーしている若きバッテリーは信頼感で結ばれ結果を出した。 試合後の会見で、2次ラウンドを総括する中、小久保監督は「小林を正捕手として起用するかどうかは決めていなかったが、強化試合での振る舞いを見ながら、2戦目の菅野の時に(同じ巨人ということで)先発させることは決まっていた。だったら初戦からとなった。正直、小林のWBCでの成長は非常に大きい」と、小林の大会での成長を絶賛した。