WBC侍J米国行きの裏に千賀と小林のフォークを巡る信頼感
足が吊った。 「軸足じゃなくて前足。こんなの初めて」 もう5回が限界だった。 「6回もいくぞ」と権藤投手コーチに打診されたが、クビを振った。 肉体が悲鳴を上げたのだ。千賀滉大(ソフトバンク)24歳。全身全霊で投げた魂の5イニングだった。 15日東京ドーム。 2勝0敗で迎えたイスラエル戦には、負け方次第では最悪のシナリオがあった。 もし5点以上を取られてイスラエルに敗れた場合、3チームが2勝1敗で並び、失点率で再びイスラエルとプレーオフを戦わねばならなかったのである。 のしかかる強烈なプレッシャー。しかも、3日前のオランダ戦後に急に言われた緊急先発である。ソフトバンクでは、先発起用されているが、侍ジャパンに招集されてからは、ずっと中継ぎ調整を続けてきた。 「やることには変わりはなかっったのですが」。2日間、先発調整を行ったが、中継ぎから先発への転向は、電子レンジでチンするようなわけにはいかない。 「4回をゼロに抑えること」 それが千賀が自らに科したノルマだった。 先頭打者のフルドにストレートをライト前に弾かれた。だが、メジャー経験のあるケリーを6-4-3の併殺打。メジャーで32本塁打をマークしたことのあるデービスには、追い込んでからフォークを2球続けた。結果、スイングアウトである。 「均衡していた。先に点を取られることだけは駄目だと思った」 しかし、お化けと評されるフォークを自由自在に操れなかった。 ワンバウンドになり、抜けて甘くも入った。 「フォークがよくなかった。でも、そこを誠司さんがうまく使ってくれた。フォークはイニングを重ねるほどにきつくなってきた。とにかく低めに。そこだけを心がけた」 3回、先頭のクリーガーにはコントロールの効かないフォークがスパイクを直撃してデッドボールになった。バーチャムに送られ、一死二塁で、ヒットを許したフルド。彼にもカウント0-1からのフォークが高めに抜けた。だが、小林は、2球続けてフォークを要求。結果は二ゴロである。ランナーが三塁に進み、ケリーにまた初球、2球とフォークを続けて追い込み、最後は152キロのストレート。ケリーは動けなかった。 圧巻は4回である。二死からボレンスタインに対して、カウント1-2から、なんとフォークを3連投したのである。1球目は抜けてファウル、2球目はワンバウンド、3球目も高めに浮いたがピッチャーゴロ。小林は、千賀が扱いに苦しむフォークを捨てることをせず、これでもかと要求した。 「千賀の一番凄いボールはフォークなんです。いかに生かすか。ワンバウンドになっても相手に意識させるために必要なんです。一方、難しいボールであることも確かです。続けたのは、その布石。ここぞで、ストレートが使えた。すべてが勝負球。そんな試合でした」