DEI推進リーダーが考慮すべき3つの法的リスク
■優遇を避ける──「引き上げ」から「公平」へ 組織は一部のグループを「優遇」するのではなく、アイデンティティについて中立的立場を維持しつつ、職場の偏見を取り除くDEIアクションを模索できる。たとえば、基準が明確で、透明性が高く、実力主義的な採用・昇進プロセスを確立したり、従業員評価プロセスからステレオタイプ的な表現を取り除いたり、従業員の福利厚生方針を見直して、平等な適用を確保したりするといったことだ。このようなアプローチは、特定のグループを他のグループよりも「引き上げる」のではなく、すべての人に「公平」な場を提供するものである。 法的な環境が最悪の状態にあっても、こうした平準化アプローチは合法だ。反差別法が適用されるのは、一部の人が異なる待遇を受ける時だけである。 ■保護グループを避ける──アップスイッチ、ダウンスイッチ、サイドスイッチ DEI措置の法的リスクを軽減する次の選択肢は、人種や性別といった保護属性を避けることだ。その方法は3つある。 第1は、「グループからコンテンツ」へシフトすること、つまり我々が「アップシフト」と呼ぶものだ。DEIプログラムに参加できるのを特定のグループのメンバーに限定するのではなく、そのプログラムの内容にコミットするあらゆる人に開放する。最近、3つの大手法律事務所が、多様性フェローシッププログラムの参加資格を社会的マイノリティのメンバーに限定したとして提訴された。参加資格を変更して、多様性とインクルーシブへのコミットメントを示した人なら誰でも参加可能にしたところ、訴えは取り下げられた。 第2の方法は、「集団から特性」へのシフトを図ること(ダウンシフト)だ。採用候補者のアイデンティティを考慮に入れることが認められるのは、その人の特性を説明する場合のみに限定するというアプローチである。最高裁はSFFA判決で、大学は人種に基づき受験生を優遇することはできないが、「人種がもたらした差別やインスピレーションなど、人生に与えた影響について受験生が語ること」を考慮できると指摘した。 同じことが雇用主にも当てはまる。雇用主は、たとえば人種に基づき昇進の判断を下すことはできないが、昇進候補者に、人種など自分のアイデンティティの特定の側面が人生にどのような影響を与えたかを語るエッセイを提出するよう求めることはできる。そのうえで、どの候補がレジリエンス(再起力)や決意などのリーダーとしての重要な資質を持っているか判断する時、こうした経験を参考にできる。 保護グループを避けるための第3の選択肢は、「コホートからコホートへ」へのシフト(サイドスイッチ)だ。これは、公民権法第7編などの法律で保護されているコホートから、そのように保護されていないコホートへのシフトを意味する。たとえば、社会経済的地位は差別を禁止する連邦法では保護されていない属性であるとして、社会経済的な多様性を推進するプログラムを採用することができる。その雇用主が新しいコホートを、保護されているコホートの代理として使っていないなら、こうしたサイドスイッチングに法的な問題はない。 ■明白な恩恵を避ける──不利益からアンビエントな恩恵へ また明白な恩恵がもたらされるのを避けることで、組織は法的リスクを軽減できる。公民権法第7編に基づく差別を理由に訴訟を起こすためには、原告が「不利益な雇用措置」を受けている必要がある。つまり、単なる不都合や些細なことではなく、具体的な雇用条件の変更を求める必要がある。同様に、現在DEIプログラムに異議を唱える時、基礎となっている別の連邦法(1866年公民権法1981条)では、原告は雇用契約の締結または執行において差別を経験する必要がある。 したがって、雇用主にとってのセーフハーバー(確実に違法性を避けられること)は、個々の従業員が受けている恩恵や雇用機会に直接的にダメージを与えず、職場文化全般の多様性と包摂性を高めるDEIプログラムを構築することだ。たとえば、次のような措置を取ることができる。 ・偏見、アライシップ(連帯)、包摂的なリーダーシップなどについて従業員教育や研修を実施する。 ・よりインクルーシブな職場を物理的に構築する。たとえば男女共用トイレや、授乳室や、託児施設を設置するなど。 ・より多様な採用候補者を集めるため、アウトリーチする大学の幅を広げる。 ・ボランティア活動や慈善活動を通じて、DEI問題に注力する地域団体を支援する。 米連邦最高裁は今年度(2024年)、「不利益な雇用措置」の構成要素を見直して、一部のDEIプログラムに異議を唱えやすくする可能性のある事案で判決を下す予定だ。ただ、現時点では、「アンビエント」(環境的)なDEIプログラムを採用することで、雇用主はリスクを軽減することができる。 ■まとめ これら3つのシフトは、不可抗力と動かせない物体がぶつかった時、何が起きるかという、一見答えのない問いに答えを出すカギとなる。その答えは、物は変わるということだ。力は抵抗されるのではなく、吸収される。そして、その物体は動かされるのではなく、変形する。 法がDEIの実践に大きな変化を迫っているのは事実だ。しかし、DEI擁護派が本稿で示したような戦略的な方法でDEIプログラムを調整していれば、より公正な未来を築くというDEIの中核的な活動は今後も何十年も存続していくだろう。 "DEI Is Under Attack. Here's How Companies Can Mitigate the Legal Risks," HBR.org, January 05, 2024.
ケンジ・ヨシノ,デイビッド・グラスゴー