DEI推進リーダーが考慮すべき3つの法的リスク
■法律に基づくDEI攻撃に直面するリーダーたち 不可抗力と動かせない物体が出会うとどうなるのか。DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)を推進する企業リーダーは最近、このパラドックスに新たな緊急性を持って対応している。 ここでいう不可抗力とは、法律に基づくDEI攻撃の増加だ。2023年6月、米連邦最高裁は、大学の入学選考で人種を考慮するアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)に事実上終止符を打った(原告のNGO「公平な入学選抜を求める学生たち」の略称にちなみ「SFFA判決」と呼ばれる)。これに勢いを得た活動家たちが、職場のDEI推進活動に次々と異議を申し立てているのだ。大手企業は、不服申立手続きや訴訟、脅迫状に相次ぎ直面している。 それぞれのケースがどのような結果になるのかは不透明だが、全9人の判事のうち6人が保守派である連邦最高裁の全体的な方向性に不透明性はない。これでDEIも終わりなのではないかと考える人がいるのは無理もない。あるリベラルな法学者は、「多様性、とりわけ人種的多様性の実現を仕事にしている人は、その実現が事実上違法になった時、どうすればいいのか」と問いかける。 だが、DEIに対する法的攻撃は、動かすことのできないものにぶつかっている。SFFA判決でソトマイヤー判事が書いた反対意見にあるように、「多様性は米国の基本的価値であり、さまざまな多文化コミュニティに内包されている。そしてそのコミュニティは拡大する一方だ」。多くの大手機関に属する数多の人々(企業、政府、学界、軍のリーダーを含む)がDEIの実現を誓っており、消滅することはありえない。ある右派のジャーナリストも、活動家らが「DEIの息の根を止められる」と考えるのは愚かだと語っている。 では、21世紀の基礎を成す信念の一つと法が衝突した時、何が起こるのか。どちらかが「勝者」になることはない、と筆者らは考えている。法は不可避的に保守化するが、それにより生まれる新しい法的基準がDEIの分野に吸収されて、この分野に変化を促すだろう。この変化は有機的に起こるだろうが、賢明な組織は意図的な適応方法を検討することにより、多くの苦痛や出費を避けられる。 ■DEIのリスクを高めること 具体的にどのような変化が必要かを理解するためには、まず法的リスクを評価する必要がある。DEIプログラムは、以下の3つの基準を満たす時、最もリスクが高くなる。 1. それが優遇を意味する場合。つまり誰かが誰かよりも有利に扱われる場合。 2. その優遇が、法的に保護されたグループを対象にしている場合。たとえば、1964年公民権法第7編(雇用差別の禁止)が定めるカテゴリー(人種、肌の色、宗教、国籍、性別)により定義されるグループがこれに当たる。この性別には性的指向や性自認が含まれる。 3. その優遇が、明白な恩恵に関連している場合。ここで恩恵とは、雇用、昇進、昇給、仕事の割り当て、研修や能力開発といった機会へのアクセスをいう。 この3つの基準を踏まえると、リスクの高いDEIプログラムを特定できる。たとえば、以下のようなプログラムだ。 ・採用クオータ(「新人アソシエートの45%以上を女性にする」など) ・タイブレーカーの決定(「同じくらい優秀な採用候補者2人のうち、1人が白人で、もう1人が非白人の場合、非白人を選ぶこと」など) ・グループ別インターンシップやフェローシップ(「黒人とヒスパニック限定のインターンシップ制度をつくる」など) ・管理職報酬をダイバーシティ目標と連動させる(「女性や非白人を多く採用すれば、ボーナスを支給する」など) ここに挙げた4つのプログラムはどれも、明白な恩恵に関して、保護対象グループのメンバーを優遇している。もちろん、こうしたイニシアティブは実のところ「優遇」ではなく、これまで特定のグループの機会を組織的に奪ってきたことへの埋め合わせにすぎない、という擁護派の見解は正しい。しかし残念ながら、連邦最高裁の多数派である保守派は、このような見解に同意していない。 DEIの3つのリスクは、どうすればDEIプログラムのリスクを軽減できるかも示している。すなわち、優遇を避ける、保護グループを避ける、明白な恩恵を避ける、だ。