柄本佑「いつも“道すがら”を演じていたい」はじめてでも厚みを出せるように
昔から回り道が好きな性格
柄本さんが繰り返し眺めることの多い写真集が、2005年に東京オペラシティアートギャラリーで開催された「森山・新宿・荒木」のカタログ。当時、海外での大規模な個展が続いていた森山さんと荒木さんが新宿を撮るということで、大変な話題を呼んだ展覧会だった。その展覧会に足を運んだ当時、佑さんは18歳になったばかりだった。 柄本:高校を卒業して、映像の専門学校に通っていた時期でした。1年生のときに、映像と写真の両方の授業があったんですが、当時の僕はすでに俳優として仕事をしていたので、撮影の現場が楽しすぎて、正直、映像の授業からは面白みを感じられなかった(笑)。覚えている授業でいうと、映画のワンシーンを見て、その舞台となった場所の地図みたいなのが渡される。で、見たシーンのカットが4カットあったら、1カット目2カット目、3カット目、それぞれどこがカメラ位置ですか? というような……。普段の現場のおかげで授業の狙いが見えていた分、すぐ答えがわかっちゃうから、映像よりも、それまでやったことのない写真の授業のほうが面白かったんです。 ポートレートをやってみよう。人を座らせて撮ってみよう。モノクロの現像をやってみよう。そうやって写真を撮るという行為にのめり込みつつ、さまざまな写真集を手にとるようになった。当時はデジタルカメラも普及してきていたが、「フィルムカメラが必要!」とマニュアルカメラの名器とされるニコンのFM-2と憧れの森山さんも愛用するGR-1を買ったという。 今回の「1(いち)」の制作過程でも、いちばん心に残っているのは、森山さんと荒木さん、それぞれの撮影行為だ。 柄本:買っていただいた方にしか読んでもらえなくて恐縮ですが、それぞれの巨匠との「写真行為」の感想は、冊子の中であれこれ語らせてもらいました。でも本当に僕、このフォトブックを「こう見てほしい」とか、そういう気持ちは1ミリもないんです。それは映画なんかもそうですが、観る人の感性に委ねたい。今回は、写真カードを自由に入れ替えられたり、飾ったり、人にプレゼントしたりもできるところが、僕自身の「こんなのあったらな」という妄想が実現した部分です。普通の写真集だったらページを“めくる”という行為の中に1枚のカットがあって、それが連続するわけですが、カードだと、その写真を食い入るようにグッと見るとか、並べるとか、遊びの部分が多くなる気がして。逆に自由が故の不自由さもあるかもしれないけど。すみません、僕自身、昔から回り道が好きな性格なので(笑)。
柄本 佑