本ワサビ、海越えて英国ですくすく…食べたらガツンと辛い! 19世紀から続くクレソン農家が栽培、新鮮さ評判で欧州各国に輸出
英国で本ワサビを育てている農家がある―。少し前にそんな話を聞いた。ロンドン中心部には味が本格的かどうかはさておき「ジャパニーズフード」「ジャパニーズレストラン」と冠した飲食店がひしめき、スーパーでも手軽にパックずしが買える。それほど日本食がブームなのだが、練りワサビとされるものの多くは白い西洋ワサビ(ホースラディッシュ)に食用色素を混ぜている。本格的なワサビが英国にあるなら見てみたい。そう思い取材を申し込んだ。(共同通信ロンドン支局 伊東星華) ▽生育環境に共通点 ロンドンから列車に揺られ約2時間。南部ハンプシャーの小さな駅で「ワサビカンパニー」のガスリー・オールドさん(20)が出迎えてくれた。隣の州ドーセットを拠点に、ハンプシャーと合わせ2州で計3カ所のワサビ園を営んでいる。そのうちの一つでハンプシャーにある農園に案内された。 「こちらがワサビ園です」とガスリーさんが指さした場所には、蚊帳生地のような黒いネットが張られたテントがいくつも並び、地下40メートルからくみ上げた天然水がテント沿いに設置された用水路を流れていた。テントに入ると、みずみずしい濃緑色のワサビの葉が辺り一面に整然と広がっていた。足元には厚く敷き詰められた大小の砂利の間を水がせせらぎのように流れ、沢の環境を再現している。
ガスリーさんによると、各テントに2500~3千株のワサビが植えられている。水温は20度ほどで、地下水を使うのは気温が上昇する夏でも水温を一定に保ちやすく、ミネラルも豊富だからだ。水の通しをよくするため砂利は4年ごとに入れ替える。 ここで本ワサビ栽培を始めたのはガスリーさんの父親で、ワサビカンパニー代表のジョンさん(53)だ。後日行ったオンライン取材で「本ワサビに出会ったのは2010年だった」と振り返った。それまでは19世紀半ばから続くクレソン農家だった。得意客で日本を訪れたことがある南アフリカ出身のシェフがワサビを持って農園を訪ね、栽培を持ちかけたことがきっかけとなった。 「ワサビなんてすしに入っていることぐらいしか知らなかった」というジョンさん。インターネットなどで調べるとクレソンと同様、きれいな水で育つことを知った。「それならできるかもしれない」と新たな挑戦に踏み出した。 ▽試行錯誤の末に