本ワサビ、海越えて英国ですくすく…食べたらガツンと辛い! 19世紀から続くクレソン農家が栽培、新鮮さ評判で欧州各国に輸出
山梨県の農家から本ワサビを取り寄せ、ドーセットの農園で400株から栽培を始めた。「最も難しかったのは温度管理だ」とジョンさんは言う。ドーセットは夏と冬の寒暖差が大きく、2万株のうち半分が枯れたこともあった。栽培が盛んな静岡県の農家を訪ねて育て方を学ぶなどして改善を重ね、テント内での栽培にたどり着いた。 植えたワサビは1年半~2年で根茎が2~3センチ、長さ10センチ前後になったところで収穫する。2012年に初めてレストラン向けに販売を始めたが、日本が原産のものを英国で育てることに抵抗感を示すシェフもいた。日本産を好む日本料理店からも当初はなかなか買ってもらえず、取引先開拓の課題にぶつかった。 「栽培環境を見てもらい、採れたてを食べてもらえば品質の高さに納得するはずだ」と考えたジョンさんはシェフたちを農園に招いた。すると新鮮さが評価され、ミシュランの星付きレストランやロンドンの日本料理店を含め、20~30件の飲食店から注文が来るようになった。現在は3農園で年間1・5トンほどを収穫するが、高まる需要に追い付かず、静岡県の農家から空輸したワサビも販売している。
▽広がる評判 欧州で本ワサビを栽培している農家は珍しく、新鮮さの評判は英国外にも広がった。今ではオランダやベルギー、フランス、イタリア、スペイン、ノルウェー、スウェーデンの7カ国のレストランや日本料理店にも卸している。すしや刺し身の添え物にとどまらず、肉や魚の料理からソースまで、さまざまな創作料理に使われているという。 ワサビと日本食材に魅了されたジョンさんは、収穫したワサビを混ぜ込んだマヨネーズやタルタルソースを商品化した。ワサビを原料に、英国の有名な蒸留酒メーカーと協力してワサビウオッカも開発した。ドーセットの農園ではシソやユズ、サンショウも栽培し、苗や加工した商品をネット通販で販売している。 農園で取材中に収穫したばかりのワサビを試食させてもらった。根茎の外側をナイフでそぎ落としてすりおろすと、あのツンとした香りが漂った。それをさらにガスリーさんは慣れた手つきで練り上げる。差し出された練りワサビを少し食べると、ガツンとくる辛みの後に甘みが感じられた。ウオッカはワサビの香りと辛みがしっかり感じられながらも後味はすっきりしている。刺し身としょうゆが欲しくなった。