父のトランペット「聞こえた」 好投の沖縄尚学エース センバツ
第95回記念選抜高校野球大会(毎日新聞社など主催)第9日の28日、沖縄尚学は東海大菅生(東京)に接戦で敗れ、9年ぶりの8強進出はならなかった。エース右腕・東恩納(ひがしおんな)蒼投手(3年)の父で小学校の音楽教諭をしている直樹さん(56)は、三塁側アルプス席で得意のトランペットを披露。夢をかなえた息子にエールを奏でた。 【しびれる投手戦…東海大菅生vs沖縄尚学】 1点を追う八回の攻撃、五回からリリーフした東恩納投手が先頭で打席に入った。応援席で立ち上がった直樹さんはトランペットの音色を響かせた。曲は演歌歌手・鳥羽一郎さんの「兄弟船」。「これを吹けば、息子は『お父さんがいる』と分かるんです」。直樹さんの「十八番」で、東恩納投手の耳に残る曲だ。 直樹さんは高校時代、吹奏楽部でトランペットを始めた。音楽教諭になってからは授業で吹いたり、週末、ジャズバンドのメンバーとして活動したり、演奏歴は40年近い。マーチングバンドの指導者として子どもたちを全国大会に導いたこともある。 「我が子たちにも吹奏楽をしてほしい」。そう願って3人の息子らが幼い頃から楽器に触れさせたが、野球を始めた長男の影響で三男の東恩納投手も野球にのめり込んだ。応援でトランペットを吹く機会はまれだったが「『甲子園に出たら演奏するよ』と息子たちに言っていた。まさか実現するとは」。 甲子園では毎年、兵庫県尼崎市の市立尼崎高校吹奏楽部が沖縄県勢の友情応援をしている。直樹さんはその一員として、おなじみのチャンステーマ「ハイサイおじさん」などを演奏。東恩納投手は今大会の1、2回戦で完投勝利をあげ、救援登板したこの日も4回1安打無失点と好投した。 試合後、東恩納投手は「父のトランペットはしっかり聞こえました。仕事もあるのに、合間を縫って来てくれてありがとうと伝えたい」と頰を緩めた。直樹さんは息子をたたえた。「ナイスピッチング。夏、トランペットと一緒に帰ってきます」。親子共演のステージは終わらない。【竹林静】