“映画館”という場の持つ力を振り返る。アーティスト・志村信裕による、映画館の記憶をめぐる展覧会。
会場内には明治時代の幻灯機や芝居小屋の資料、60年代の映画ポスターなどが展示され、昭和初期の山口市を収めたサイレント映像『甦生(こうせい)の大山口』(1929年)が上映されている。また、35mmフィルムが7缶詰まった袋を来場者が持ち上げて、その重さを確かめることもできる。隣接する大空間では志村の新作映像《Afternote》が上映されているが、山口市近郊に遺された映画館の映写室が原寸で再現されており、映写技師の目線で観客席とスクリーンを覗くこともできる。 「60分の映像作品《Afternote》だけでなく、フィルムの重さや映写窓、過去の資料などが全部インスタレーションの一部として機能するように展示しました。それができるのが〈山口情報芸術センター[YCAM]〉で、映像が覗き見えたり、漏れた音が聞こえたりする、ひとつにつながった空間を作りました」
映像作品《Afternote》には、志村の言う「物心ついた頃にまだテレビがなかった人たち」が多数登場し、映画館にまつわる思い出を生き生きと語る。記録映像や資料写真もふんだんで、観客は当時を追体験できる。また山口を映す最古の映像とも言われる『甦生の大山口』の山の上からの山口市街の俯瞰映像や、同じ場所から新たに撮影した映像もあり、100年を隔てた過去と未来を結びつける。時折挿入される外国語のナレーションと字幕は、台本のト書きのようでもある。 「山口市の映画館の歴史というローカルな話題なので、他の場所では発表しづらいかな、と最初は思っていました。ところが、取材を続けるほど考えが逆になったんです。たとえば映画のタイトルにせよ、俳優の名前にせよ、『101匹わんちゃん』とかスティーブ・マックイーンとかグローバルなものだし、石原裕次郎とか山口百恵は日本の全国民が知っている。全世界や日本中の人たちが見てきたものを扱っているという点で、すごく間口の広いモチーフだと思いました。映画館が減ってしまった山口市に限らないように、この地域を掘り下げるほど、大都市にもある似た問題が浮かび上がってくるのではないかと思っています」