近い将来「1ドル120円台」の可能性も…9月の米ドル/円動向を左右する「FOMC」の注目ポイント【国際金融アナリストが解説】
「米ドル安・円高トレンド」に転換している可能性
8月にかけての米ドル/円の急落により、米ドル/円は52週MA(移動平均線=8月末現在、150.6円)を、先週まで5週連続で下回りました。このように、「長く」「大きく」52週MAを米ドル/円が下回ったのは、2021年1月から米ドル/円の上昇トレンドが展開してきたなかで、初めてのことです(図表4参照)。 その意味では、今回の米ドル/円の急落は一時的なものではなく、すでに米ドル高・円安はあの161円で終わり、継続的な米ドル安・円高の流れ、つまり「米ドル安・円高トレンド」に転換している可能性があります。 米ドル安・円高トレンドが展開するなかでも、相場なので一時的にそれと逆行する米ドル高・円安は起こります。ただ、経験的には、最大でも52週MA前後までとなりそうです。 足下150.6円程度の52週MAが今後下落に転じるようなら、米ドル/円は一時的な上昇でも150円を大きく越えられず、この間の安値の141円台を割り込みに向かうといった見通しになるでしょう。 過去の主な円高トレンドは、2年以上続き、そのなかで米ドルが2割以上下落するのが、平均的パターンでした(図表5参照)。 これを参考にすると、2024年7月に161円から始まった今回の米ドル安・円高トレンドは、2026年にかけて、120円台を目指すイメージになると考えられます。
9月の注目点=FOMCを睨み、141円の安値更新はあるか?
これまで見てきたように、米ドル/円は下落トレンドに転換した可能性が高そうです。それでは、この9月は、8月に記録した安値の141円台を割り込んでいくことになるのでしょうか? 7月頃から、米ドル/円は日米金利差との相関関係が復活しました(図表6参照)。 その意味では、9月に早速141円台の安値を更新するかは、日米金利差の動きが手掛かりになりそうです。 この日米金利差は、金融政策を反映する2年債利回り差米ドル優位で見ると、7月初めの4.4%程度から一時は3.4%程度まで、つまり約1%といった具合に、比較的大きく縮小しました。 これは米金利が低下する一方、日本の金利が上昇したことで起こったものですが、基本的には、米金利低下の影響が大きかったと考えられます。それぞれの最大変動幅は、米2年債利回りが0.9%、一方の日本の2年債利回りは0.2%に過ぎませんでした(図表7参照)。 7~8月に、日銀は利上げを実施し、一方、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策変更はありませんでした。ただし、市場金利は、米利下げを先取りした米金利低下が、日本の金利上昇以上に、日米金利差変化に大きく影響したといえます。 9月は18日がFOMC(米連邦公開市場委員会)、20日が日銀金融政策決定会合と予定されています。このなかで、FOMCは、この局面での最初の利下げを決めるとの見方が有力になっています。それが0.25%か、それとも0.5%以上の大幅になるか、そして、年内残る11、12月のFOMCでの連続利下げにつながるかの織り込み方次第で、米金利低下が再燃するかどうか。それが、9月中に141円台の安値更新の有無を決める目安となる可能性があります。 ちなみに、投機円売りバブルで展開した円安が、バブル破裂で円高に転換したという、ここまでの動きとよく似ていたのが、2007年でした。2007年は6月末で円安が終了、そして8月にかけて、米ドル/円は10%以上の急落となり、米ドル/円の細かい値動きに至るまで、最近の為替の動きと類似していました。 また、2007年は、9月にFRBがその局面での最初の利下げを0.5%の大幅で決定し、さらに11、12月と、0.25%の利下げを連続的に実施しました。その状況で、米ドル/円は、11月に入ると8月の安値を更新し、一段の下落に向かいました(図表8参照)。 上記のように、2007年の米利下げペースと今回を比較するのは、今後の米ドル安・円高の見通しを考えるうえで、1つの手掛かりになるかもしれません。 米ドル/円は、7、8月と2ヵ月連続で10円前後の大幅な値幅となりました。9月は値幅が縮小しそうですが、ある程度荒い値動きは続くと考えられます。 これまで見てきたように、円高へトレンド転換した場合、それと逆行する米ドル/円の上昇は限られる見込みです。一方で、9月のFOMCを睨みながら、この間の安値141円台を大きく更新するのも簡単ではないと考えられます。以上を踏まえると、9月の米ドル/円の予想レンジは、140~148円で想定します。 吉田 恒 マネックス証券 チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長 ※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。
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