オルタナ総研統合報告書レビュー(32): マツダ
記事のポイント①マツダの経営哲学は「ブランド価値経営」②その背景は1975年CI導入と2010年魂動デザイン③お客様からマツダ独自の価値で選ばれることがマツダの価値創造
マツダ統合報告書2023の「トップメッセージ」の中で、毛籠勝弘社長は、「お客様からマツダ独自の価値で選ばれるというありたい姿を実現する為、ブランド価値経営を経営の基本方針とする」と宣言しています。その背景は1975年CI導入と2010年魂動デザインです。ブランド価値経営を柱に、2030経営方針として、「走る歓びを感じる商品づくり」を「マツダ独自の価値創造」だと強調しています。(オルタナ総研フェロー=室井 孝之)
マツダは1920年前身の東洋工業の創業から今日まで、100年以上歴史を重ね、1975年にはCI(コーポレートアイデンティティ: 企業イメージを統一的に発信する企業戦略)を日本企業で初めて本格導入しました。その一方で、企業としての「社会における存在意義」は明確に定義されていない状態にあった反省を踏まえ、2013年より「ブランド価値経営」を経営哲学として掲げています。 そのトリガーは、同社が米国の大手自動車企業の傘下(現在は資本提携を解消)に入り、マツダのブランドが「最もカジュアルなハイブランドであるべきだ」と一方的に位置付けられ、矮小化されつつあり、ブランドが消えるかもしれないという危機感でした。 同社は、個別車種ごとのデザインを改め、全車統一という思い切ったデザイン戦略を採用し、一貫性のあるデザイン群をつくりブランドとしての強力なメッセージを発信する戦略を取りました。 このデザイン戦略が、2010年からのデザインテーマ「魂動(こどう)デザイン-魂と命の動き」に結実しました。 美しいデザインの車は骨格がしっかりしているという点に着目し、自然界にも溶け込むようなフォルムを意識し、美しいカタチを追求しました。 そして同社のデザイン戦略を成功に結びつけた要因は、製造業としての「ものづくり」とそれを支える「ひとづくり」です。 生産ラインに高性能な機械を導入しても、それを使いこなし、購入者の価値に転換できる人がいなければ良いクルマは生み出せないため、ひとづくりにこだわる。という「最大の経営資源は人」という基本的な思想です。 マツダらしい独自のひとづくりの取り組みが、マツダ工業技術短期大学校や挑戦への志を育む選抜型プログラムマツダ塾です。 「ブランド価値経営」を経営哲学に掲げて10年が経過した今、毛籠社長は「ブランド価値経営とは、マツダが提供する価値を、お客さまをはじめステークホルダーの皆さまに共感して頂くことで、そこから生まれる感情的なつながりを通して長くマツダとお付き合い頂き、ブランド価値の向上を通じて企業価値を高めていく経営哲学」と述べています。 同社長は、「クルマに乗ることで得られる「走る歓び」をお客さまに感じて頂くために人を深く研究し、人体の構造や脳のメカニズムを理解し、モデル化することによって、人が気持ちよく安全に最大のパフォーマンスが発揮できる商品へさらに進化させる」と述べています。 上記の「人を深く研究」「人体の構造や脳のメカニズムを理解し、モデル化」の記述は抽象的ですので、次回の統合報告書では、具体的に情報公開されたらいかがでしょうか。 また、マテリアリティの8つの項目および関連取り組み/目標が掲げられていますので、次回は、KPIの進捗状況を開示されたらいかがでしょうか。