「知らん!俺はそんなの知らんぞ!」の一点張り…43歳長女、自宅に届いた〈高級リゾートホテルの請求書〉で悟った「年商100億円」「78歳会社社長の父」の異変【弁護士の助言】
会社社長の父(78歳)、専業主婦の母(76歳)と兄(50歳・既婚)がいる相談者のマミさん(43)。「父はまだまだ元気ですが、そろそろ引退を考える時期でもあり、相続の心配も出てきました。特に最近は、朝食べたものやさっき言ったことも忘れることがあり、そのうち認知症になるのでは? と心配が絶えません」と相談にいらっしゃいました。本連載では弁護士・板橋晃平氏が、認知症になる前に家族で準備しておきたいことや利用すべき制度等について具体的に解説します。 【早見表】年収別「会社員の手取り額」
「父の物忘れがひどくて…」43歳女性からの相談
年商100億円の通販企業社長の父(78歳)、専業主婦の母(76歳)と兄(50歳・既婚)がいる相談者のマミさん(43)。父はまだまだ元気ですが、そろそろ引退を考える時期でもあり、相続の心配も出てきました。特に最近は朝食べたものやさっき言ったことも忘れることがあり「そのうち認知症(※)になるのでは?」と密かに疑っています。 この前も高額リゾートホテルの年会費の請求書が自宅に届き、父は「知らない!」の一点張りで大騒ぎしたところでした。父の物忘れがこのまま進んだらどうするのだろう? と考えると夜も眠れません。 今から準備しておいたほうがいいことなどあれば教えてください。 ※認知症は、記憶力や判断力の低下を引き起こす病状であり、法的意思能力にも影響を及ぼす可能性があります。
お父様の状況と法律的なリスクへの対応の必要性
相談内容から察するに、現在のお父様はまだ意思能力(法的行為を行う判断力)を保持しているものの、物忘れが頻繁になり、今後認知機能が低下する可能性を懸念されています。この状況では、意思能力の低下に備えた法律的な対策を早急に講じることが重要です。 特に、意思能力の低下が進行すると、会社運営や財産管理、さらには将来の相続に支障が出る可能性があります。 本記事では、弁護士の視点から、法律用語を交えつつ具体的な対応策を解説します。
1. 意思能力と相続・財産管理の関係
民法上、「意思能力」とは、自分の行為の法的な意味や結果を理解し、それに基づいて判断できる能力を指します。意思能力が失われると、本人の法律行為(株主総会での議決権の行使、契約締結や遺言書作成など)が無効となる可能性があるため、会社経営、財産管理や生前相続対策において深刻な影響を及ぼします。 (1)会社経営の問題 中小企業の会社経営者の場合、代表取締役である社長が会社の株式のほとんどを保有しているため、意思能力が低下した場合、株主総会や取締役会にて重要な意思決定を行うことができず、社長が取引行為をできなくなるおそれがあることから、会社運営が停滞し、重大な損害が生じる可能性があります。 また、後継者に事業を承継させるためには株式を譲渡する必要があるところ、意思能力が低下した場合、株式を譲渡することができず、生前に事業承継を行うことができなくなるというリスクがあります。 マミさんの場合も、お父様が認知症になり意思能力が著しく低下した場合には、お父様が意思決定をすることができない以上、会社を運営することができず、会社に損失が生じてしまう可能性があります。また、マミさんやお兄様が会社の後継者として、お父様の生前に事業承継をすることもできません。 (2)財産管理の問題 意思能力の低下により、契約締結や資産運用の判断を適切に行えなくなります。 マミさんの場合、お父様が、高額な商品の売買やゴルフ会員権の購入等の不要な契約を締結させられるリスクや、詐欺被害に遭う可能性が高まります。 (3)遺言書の効力 遺言書は、作成時に意思能力が必要です(民法963条)。この意思能力とは、遺言書に記載された内容の法的効果を理解し、自らの意思で判断する能力を指します。仮に意思能力が欠如した状態で作成された場合、遺言書は無効となり、遺産分割をせざるを得なくなります。 マミさんのお父様に限らず、意思能力が欠如している場合、遺言書は無効となり、円滑な相続を実現できなくなります。