NHK、「旧ジャニ」の紅白出場枠を2組で調整か 増枠目指す旧ジャニ側と交渉難航で「折り合いがつかない」の声も
「Nスペ」放送の狙いと舞台裏
旧ジャニーズ勢のNHK全体への出演が増えたのも2000年代から。その訳は「NHKスペシャル(Nスぺ)」の「ジャニー喜多川 アイドル帝国の実像」(10月18日放送)で若泉氏が説明した。この時期、若者の同局への接触率(観た人の割合)が下がっていたのである。歌番組やドラマを若者に観てもらうために旧ジャニーズ勢に頼ったという構図は民放と変わらない。 同局は昨年9月末から旧ジャニーズ勢の出演を見合わせてきたが、若者対策もあるから、いつかは解禁しなくてはならない。完全ではないが、性加害の被害者への補償も進んだ。民放も全局が解禁した。そのタイミングで放送されたのが、この「Nスぺ」なのである。 「Nスペ」は当初、9月に放送する動きもあった。「紅白」出場者の出演交渉が本格的に始まるのは10月だから、その前に放送したかったのだろう。スタート社勢の出演解禁が発表された4日後の放送となった。 「旧ジャニーズ勢の出演は認めるが、性加害などの問題に目を瞑ることはない。そんな上層部の姿勢を表したい意味もあり、この時期に『Nスペ』を放送したのでしょう」(NHK制作畑の職員) 制作畑の職員の見方は冷めている。制作畑は視聴率が求められるため、旧ジャニーズ勢と付き合ってきたが、「Nスぺ」では暗に批判されてしまい、先輩の若泉氏が矢面に立たされたからである。 「NHKと旧ジャニーズ勢の問題を掘り下げるのなら、現役の上層部にも話をさせるべきだったのではないか」(前出のNHK制作畑の職員) 上層部とは無論、報道畑のこと。ここでも報道畑と制作畑の溝が見え隠れする。ちなみに上層部には報道畑の中でも「Nスペ」経験者が目立つ。 一方で「紅白」制作現場は出場者の選考過程の透明化を急がなくてはならない。なんでも密室で決めることが許されていた昭和期とは違い、情報公開が当たり前の時代なのだから。 スタート社にも課題がある。福田淳代表取締役CEO(59)は会社成立前に一部マスコミの取材に応じただけで、記者会見を行っていない。こちらも情報公開に後ろ向きだ。 福田氏は過去、エンターテイメント産業について「古い体質を変えていかなければなりません」との考え方を示したが、矛盾しているのではないか。同社はほかの芸能事務所とは違う。空前の性加害問題の舞台となった旧ジャニーズ事務所を引き継いだのだ。 やはり不祥事を起こしたビッグモーターは伊藤忠商事などに事業が引き継がれてWECARSとなった5月、記者会見を開いている。ほかの不祥事組織も同様である。芸能界は特別と考えているのなら古い。 ※紅白歌合戦のスタート社の出場枠について、NHK広報局は「第75回NHK紅白歌合戦の出場歌手については選考中であり、個別の出演交渉等、番組の制作過程についてはお答えしておりません」と回答。スタート社は期限までに回答はなかった。 高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ) 放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。 デイリー新潮編集部
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