海外サッカーでも続いている差別との戦い
イングランドで、黒人選手に対してバナナの皮が投げ入れられるようになったのは1970年代だった。ちょうど同じ頃、フェイエノールトのサポーターはアヤックスに対し「ユダヤ人はガス室送りだ」と歌い、逆にアヤックスのサポーターは「ロッテルダムに爆弾を落とせ」とやり返した。この背景には、アヤックスのサポーターは自らを『ユダヤ人の末裔』と名乗り、フェイエノールトの本拠地ロッテルダムは第2次世界大戦でドイツ軍の空襲を受けた事がある。 あれから40年、今もヨーロッパのサッカー界から人種差別、地域差別は無くならない。2011年のことだった。強豪アヤックス相手に金星を挙げたADOデン・ハーグの選手とサポーターは有頂天になり、地元に戻った後、MFイマース(現フェイエノールト)が音頭をとって「ユダヤ人を狩ったぞ」と踊りまくったのだ。その中にはファン・デン・ブロム監督(当時)もいた。さすがに、これにはホロコーストを受けた遺族たちや関係者が激怒したという。 やった本人たちに罪の意識がない事も多い。アヤックスのOBでもあるファン・デン・ブロムにとっては“ユダヤ人”というのは単なるアヤックスのニックネームでしかなかったはずだ。近年ではウルグアイ代表のスアレス(リバプール)が、エブラ(マンチェスター・ユナイテッド)に対し「黒人」とののしり、FA(イングランドサッカー協会)から8試合の出場停止処分を受けた。そのとき、彼が使った言葉は『NEGRITO』というもので、南米の習慣では蔑視の単語に当たらないものだったという。 人種差別は味方に対しても起こる。1992年、スリナム系オランダ人のビンターがラツィオと契約したとき、サポーターはクラブの事務所に「我々は黒人もユダヤ人もいらない」と記した。 こうした差別撲滅にUEFA、FIFA 、各国協会が取り組んでいるが、KNVB(オランダサッカー協会)にとって転換期となったのが2004年だった。9月に行われたADOデン・ハーグ対アヤックス戦で「ユダヤ人をガス室へ」、「ファン・デル・ファールト(当時アヤックス)の彼女は売春婦」、「ハーグの人間はがんだ」という悪質なチャントのオンパレードとなった。例えばこの「がん」という野次は、実際に病気に苦しむ本人や家族を大いに悲しませるもので、サッカー界を越えた問題となった。