日本と中国の類似点…「不動産バブル」を引き起こした“黒幕”の正体【経済の専門家が解説】
米国による「ドル散布」が世界経済の発展をもたらした
この米国の対外債務の増加、換言すればドルの散布は世界経済にとって好ましい結果をもたらした。 1980~90年代に日本が対米輸出で経済飛躍を遂げ、1990~2000年代には韓国、台湾、香港などのアジアNIESが離陸し、2000年代以降中国経済が高成長を遂げたが、その起点はすべてドルの散布にあったといえる。 中国が世界の製造業生産の4割弱、PC、スマートフォンなどハイテク製品や、ソーラパネル、EVなどのクリーンエネルギー分野では8~6割という高シェアを獲得するというオーバープレゼンスはまさしくニクソンショックの賜物であった。このドルの垂れ流しシステムこそが現代のグローバリゼーションの本質といえる。 この対外黒字体質の定着、恒常的貯蓄余剰が日中経済に大きなゆがみをもたらした。本来であれば国内需要の増加により対外不均衡が是正されるべきであるのに、短期間での内需拡大は不可能であった。 対米黒字の積み上がりが、日本や中国における通貨の過剰発行をもたらし、その後の不動産バブル形成の原因になったことも銘記されるべきであろう。 日中の対外経常黒字(対GDP)と家計債務(対GDP)の推移を見ると、日本、中国ともに、両者の連動性がうかがわれる。 ドル散布は米国人の生活水準をも押し上げた ドル散布は米国国内でも機能した。米国の輸入依存度は1970年代初頭のニクソンショックまでは10%にとどまっていたが2010年以降8~9割に達している。かつて衣料品もTVも自動車も大半を国内で作り自給自足体制であった米国経済が大きく開放化されたのである。 これにより太宗の製造業の空洞化か進んだが、それはIT、サービスなど新たな産業と雇用の勃興によりカバーされた。別の観点から見れば、米国製造業の空洞化が米国での産業構造の高度化を推し進めたともいえる。
今年11月の大統領選挙…誰が就任でも「ドル覇権堅持」は必須
米国消費もこれによって増加した。1970年代初頭米国消費のGDPに対する比率は60%であったが50年後の2023年この比率は68%へと大きく上昇した。 安価な輸入品により米国消費者の実質購買力が押し上げられたことが寄与している。この対外債務の積み上げをともなう米国経済の成長と生活水準の向上は健康なものか、持続性があるものかが問われるが、それはドル覇権が維持されるかどうかにかかっているだろう。 米国が積み上げた対外純債務は過去の経常収支赤字額累計で15兆ドル、対外資産負債残高に記録される対外純債務(net international investment Position)では18兆ドルと巨額である。 この返済をただちに迫られればドルは急落し、米国は大インフレに陥る。しかしドル覇権の維持が確かであれば、対米債権はドルという通貨保有であるから、返済を求める必要がなくなる。つまり米国国民の生活水準を維持するためには、ドル覇権を持続することが必須であるという論理が成り立つ。 武者 陵司 株式会社武者リサーチ 代表
武者 陵司