<止まらぬ円安>日本経済への影響は必須でも、それが貿易赤字要因ではない理由、本質を見極めた議論を
日本人は、最近は円安が嫌いになっているらしい。「円安が貿易収支の赤字圧力となっている。2023年度は5兆8918億円と3年連続の赤字となった。資源高は一服したものの、円安は輸入額を上げる方向に働く。原油など輸入品は円を売って換金したドルで取引することが多く、円安に拍車がかかる要因ともなっている」という記事があった(「円安が貿易赤字圧力 エネ輸入額押し上げ 昨年度、3年連続」日本経済新聞2024年4月18日)。 この記事は、当然ながら、貿易収支を円建てで考えている。ドル建てなら、円が上がろうが下がろうが関係ないからだ。 貿易収支なら輸出も考えなくてはいけないが、輸出のドル建ても変わる理由がない。すると、ドル建て輸入もドル建て輸出も為替レートで換算して円建てにしているだけである。 極端な場合を考えて、1ドル100円から1ドル150円に円安になると貿易収支はどうなるだろうか。ドル建てでの輸出を1兆ドル、輸入を1.2兆ドルとしよう。すると、1ドル100円の時の輸出は100兆円、輸入も120兆円で貿易収支は20兆円の赤字である。1ドルが150円になれば輸出は150兆円、輸入は180兆円になる。貿易収支は30兆円の赤字と拡大する。分かりにくいので、同じことを表にしておく。 貿易収支が現在赤字なら、確かに円安によって円建ての赤字は増える。しかし、現状がもし黒字なら、円安で円建ての黒字は増えるだろう。また、円の価値がドルで減少しているのだから、これを赤字が増えて大変だというべきだろうか。 貿易赤字がどれだけ大変かという指標として、輸出に対する赤字という指標がある。貿易赤字をどれだけ輸出でカバーできるかという指標である。 これで見ると、貿易収支が20兆円の時は100兆円の輸出で割って0.2である。貿易収支が30兆円の時は150兆円の輸出で割ってやはり0.2である。
通商の赤字は経常収支で考えるべき
さらに、赤字をどれだけ輸出でカバーしているかが大事なら、貿易だけに依らないサービス(旅行等)、所得の受取/支払いなども含めた輸出入を考えるべきである。これは経常収支=財・サービス輸出・海外からの所得の受取-財・サービス輸入・海外への所得の支払を考えることになる。 財・サービス輸出・海外からの所得の受取は1.8兆ドル、財・サービス輸入・海外へ支払は1.6兆ドルとする。1ドル100円なら財・サービス輸出・所得の受取は180兆円、財・サービス輸入・支払は160兆円となり、経常収支は20兆円の黒字である。 1ドル150円なら財・サービス輸出・所得の受取は270兆円、財・サービス輸入・所得の受取は240兆円となる。経常収支は30兆円の黒字となり、1ドル100円の時の20兆円より増大している(これらの数字は1ドル100円の時の円建てで、現実に近い数字を入れている)。こちらも表にしておく。 以上の計算は等式の左辺と右辺に同じ数字を掛けただけだから、大きな数字を掛ければ、左辺がマイナスならマイナスが大きくなり、プラスならプラスが大きくなるだけのことである