<止まらぬ円安>日本経済への影響は必須でも、それが貿易赤字要因ではない理由、本質を見極めた議論を
機械的な計算ではなく考える
以上の試算に対し、そんな機械的な計算は間違っている、円が動けば輸出も輸入も動くという批判があるだろう。この批判は、日経記事にも当てはまるものだが、機械的に考えないとどうなるかを考えてみよう。 機械的に考えないと複雑になるので、財・サービル輸出/輸入・所得の受取/支払を財の貿易と同じように考えられるとして、輸出はすべて自動車、輸入はすべて原油とする。 すると、 経常収支=1.8万ドル(自動車1台の価格)×1億台-80ドル(原油1バーレルの価格)×200億バーレル=1.8兆ドル-1.6兆ドル=0.2兆ドル 1ドル100円であれば、 経常収支=180万円(自動車1台の価格)×1億台-0.8万円(原油1バーレルの価格)×200億バーレル=180兆円-160兆円=20兆円 1ドル150円であれば 経常収支=270万円(自動車1台の価格)×1億台-1.2万円(原油1バーレルの価格)×200億バーレル=270兆円-240兆円=30兆円 ここで円が動いても原油の販売量を同じにしておいたのは、原油の円建て価格が上がっても、あまり節約する余地はないからだ。ガス料金や電気料金やガソリン代が上がっても、使わなければ生活できないし、工場も稼働しないのだから価格上昇を受け入れるしか仕方がない。しかも、政府が補助金を出して値段を抑えてくれているのだから、なおさら節約する必要がない。
自動車輸出の方はどうだろうか。円安になったからと言って、輸出している車のドル建ての価格が下がる理由はない。同じドルで売ると、これまで100万円を受け取っていたものが150万円受け取れる訳だから利益は大きくなる。 この時、自動車会社は価格を下げて台数を増やすだろうか。値段を10%下げて売り上げ台数が10%以上増えるなら、すなわち価格×台数の売上額が増えるならそうするかもしれないが、売上額が増えなければ、そうはしないだろう。すなわち、売上額が増える時だけ輸出を増やすだろうから、円安になったときには必ず輸出額は同じか伸びる。
円安が貿易赤字の主因ではない
円安の輸入に対する効果だけを考えるのは誤りで、輸出と輸入の両方を考えないといけない。当たり前の結論だが、当たり前の議論がなされていないときには価値のある結論だろう。 円安が貿易赤字の直接の原因ではない。本質を見た議論をしなければ、日本経済がどうなるかは考えられないのではないだろうか。
原田 泰