「日本の果物」はなぜすごいのか? 美味さの秘密から、ブランド防衛まで迫った一冊(レビュー)
日本の食品の美味さは誰もが認めるところだろうが、中でも果物のレベルの高さは折り紙付きだ。高級店で大枚をはたかずとも、身近なスーパーで果物を買ってまず外れがない国は、おそらく日本だけなのではないかと思う。 竹下大学『日本の果物はすごい 戦国から現代、世を動かした魅惑の味わい』は、柑橘類、柿、ブドウなど各種の果物の歴史を追いつつ、国産果実の美味さの秘密に迫った本だ。
本書に収録されている果物関連の情報は詳細かつ膨大。最初の数ページをめくるだけでも、「日本の柑橘類の九五パーセントはカラタチに接ぎ木されて栽培されている」「菓子という言葉はもともとは果物という意味」などなど、へえっと思うような記述に出会うことができる。 新種の発見・導入、新たな栽培法の開発に挑んだ人々のエピソードも豊富で、種なしのデラウェア、巨峰などの有名品種誕生物語は中でも興味深い。味だけでなく、食べやすさ、保存性、見た目などあらゆるこだわりが詰まっているのが、現代の果物なのだ。一方、シャインマスカットは海外で品種権を取得しなかったため、勝手に増殖されてしまったなどの話も出てくる。こうしたブランド防衛も、今後の大きな課題といえそうだ。 本書を読んでから青果売り場に行くと、一つ一つの品種を味わい、食べ比べる楽しみが大いに増すことだろう。食欲の秋におすすめの一冊だ。 [レビュアー]佐藤健太郎(サイエンスライター) 1970年、兵庫県生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。医薬品メーカーの研究職、東京大学大学院理学系研究科広報担当特任助教等を経て、現在はサイエンスライター。2010年、『医薬品クライシス』で科学ジャーナリスト賞。2011年、化学コミュニケーション賞。著書に『炭素文明論』『「ゼロリスク社会」の罠』『世界史を変えた薬』など。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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