「争点のトランプ」に勝機あり

(ホワイトハウスのフェイスブック)

これらの経済データは、「ハリス優勢」の選挙情勢分析の正確性に問題があることを示唆している。 実際に、世界最大規模の世論調査会社であるイプソスでは、現在の状況を「勢いのハリスと争点のトランプ」と表現した。イプソスによれば、今回の選挙が純粋に「雰囲気」に基づいていたとしたら、勝利は完全にハリス氏側にあるという。 しかし、「経済」や「インフレ」の争点においては、トランプ氏がハリス氏を大きくリードしている。イプソスは、「選挙においては、主要な争点に強い候補者が85％の確率で勝利する」と指摘している。 共和党のララ・トランプ全国委員会共同委員長も、「今回の選挙は国民の生活が争点だ。彼らの収入に関する選挙であり、人々が食べていけることが大事だ」と語っており、トランプ候補が優勢を奪い返すとの見解を示している。 一方ホワイトハウスは、「バイデン・ハリス政権のおかげで国内総生産(GDP)が伸びた」「政権の努力により物価上昇率が下がった」と訴えている。しかし、経済とインフレに関する争点でトランプ氏が10ポイントほど優勢である世論調査の結果を見る限り、そのメッセージは米国民の心に刺さっていない。 なぜなら、保守派の経済評論家であるリズ・ピークス氏が指摘するように、「仕事の掛け持ちなどで疲れ果てた米国人は、バイデン・ハリス政権がもたらしたインフレの津波をやり過ごすことで精一杯」であるからだ。 そもそもハリス候補は、2~6月の党内大統領予備選挙で有権者からの直接票を得て、民主的かつ正式な手続きの下で大統領候補に指名されたのではない。オバマ元大統領やペロシ元下院議長など民主党の最高指導部が「バイデンでは勝てない」と判断したため、直接票をもとにバイデン大統領へ党大統領候補の指名投票を誓約していた約3900人の代議員を「横取り」する形で指名されたという、正統性問題を抱える。 さらにハリス氏は、バイデン氏撤退で大統領候補指名が確実になって以来、1ヵ月以上もメディアのインタビューに応じていない。こうした中、有権者たちは次のような質問を投げかけたいのではないだろうか。 「バイデン大統領は、『ハリス副大統領と私は、力を合わせて米経済を大きく改善した』と語っている。あなたが大統領に就任すれば、経済とインフレ面でバイデン大統領の政策と違いを出すつもりか。もしバイデン路線から変更がないのなら、どのようにして経済やインフレを改善するのか」。 ハリス副大統領はインタビューや会見で、「民主党に有効な対策があるなら、なぜ今、それが実行できないのか」と問われ、バイデン大統領の経済政策を継承すると回答すれば、「それらの政策のために国民の生活が苦しくなったのではないか」と詰められることが予想される。 こうした現実を勘案すると、ハリス候補の現在の勢いは11月5日の投票日までに大きく衰え、トランプ候補が争点とする「経済」と「インフレ」が有権者の主要な関心事になっていくと思われる。 さらに連載記事『「マクドナルドが高すぎる！」…ビッグマック「2800円」論争が映し出す、「アメリカ人の悲惨な生活」と大統領選での「怒りの矛先」』でも、大統領選の投票行動に影響するであろう経済の実態を紹介しているので、ぜひ参考としてほしい。