「高学歴でも低賃金の仕事」にしか就けない、学位インフレの現実 米国
高等教育の目指すところは、新しい発想や技能を学生の身につけさせ、より高収入の仕事に就ける道を開くことである。多くの学生がこの夢を実現する。だが、それはすべての学生の身に起こるわけではない。 大卒者の割合が年々増加するにつれ、せっかく大学で学んだにもかかわらず、従来は大学教育を受けていない人々が従事していた職業にしか就けず、給与額も低いままという卒業生が増えている。 この傾向は、米国勢調査局が毎年実施している「米地域社会調査(ACS)」2023年版のデータでも浮き彫りになった。 1980年には、現在の貨幣価値に換算して6万~8万ドル(約900万~1200万円)の年収を得ていた働き盛りの労働者のうち、学士号以上の学位を取得していた人は29%だった。この収入区分の大半を占めていたのは、4年制大学を卒業していない労働者だったのだ。しかし、現在ではこの収入区分の52%が学士号以上の学位を持っている。 他の収入区分でも同じパターンが見られる。1980年には、現在の貨幣価値で10万ドル(約1500万円)以上の収入を得ている労働者の42%は、4年制大学の学位を持っていなかった。つまり、大学を卒業していなくても高収入を得ることは可能だった。けれども、現在ではその道は閉ざされつつある。現在10万ドル以上の収入を得ている労働者のうち、大学を卒業していないのは21%のみだ。 以前は学位を必要としなかった職種に対して雇用主が学位を要求する現象は、「学位インフレ」と呼ばれている。たとえば、1990年には秘書・事務補助の職に就く人で学士号を持っているのはわずか9%だったが、2023年には35%に増加した。秘書の給与額の中央値が4万6010ドル(約700万円)で、全労働者の中央値を下回っていることを考えると、これは特に懸念される傾向だ。 米シンクタンクのバーニング・グラス研究所の調査では、大卒者の約半数が最初の就職で、自身のスキルや学歴を十分に生かせない「不完全雇用状態」にあることが判明している。これは通常、学位を本来必要としない職業に就いていることを意味する。