「高学歴でも低賃金の仕事」にしか就けない、学位インフレの現実 米国
求人票から学位要件を削除するだけでは不十分
不完全雇用には代償が伴う。不完全雇用状態にある大卒者の収入額は、学位を必要とする仕事に就いている同世代の収入額の約3分の2にとどまる。実際、不完全雇用状態にある大卒者の給与額は、大卒資格を必要とする職業のそれよりも、高卒者の給与額に近い。 大学に進学したにもかかわらず大卒レベルを大きく下回る給与額の仕事にしか就けなかった卒業生は、負担した学費を十分に回収できないおそれがある。平均的にみて大学進学は依然として「経済的に見合う」進路だが、一部の学生は投資のリターンを得られていない。その結果、学生ローンの返済に苦労する人が増え、「もはや大学には価値がない」という認識を助長している。 学位インフレは大卒者に害をなすだけでなく、大卒資格を持たない64%の米国人に対しても就職の機会を閉ざしている。低い収入区分に占める大卒者の割合が増えるにつれ、学士号を持たない労働者は徐々に高い収入区分から姿を消していく。かつては大学を出ていない人が管理職に昇進して高給取りになることもよくあったが、現在ではほとんどの企業で学位を持っていなければ管理職や経営幹部にはなれない。 雇用主も問題に気づき始めている。多くの企業が求人票から学位要件を削除するようになっており、州政府も同様だ。この傾向は心強いが、こうした学位を持たない労働者にとっての機会拡大は、まだ全体的なデータには現れていない。大卒資格を持つ労働者の割合は、あらゆる収入区分で増加し続けている。採用担当者に意識的または無意識的に大卒の求職者を好む傾向がある場合、書類上で学位要件を削除しても効果はないかもしれない。 学位インフレを逆転させるには、ただ求人票から「学士号取得者優遇」という文言を削除するだけでは不十分である。雇用主は、大学を出ていない求職者に対する採用活動における偏見に対処する必要がある。政策立案者は、大学進学以外の進路で人々が能力を開発し、発揮できる場を増やすことに取り組まなければならない。 学位よりもスキルを重視する雇用市場の実現は可能だ。しかし、まだまだ先は長い。
Preston Cooper