『アストロボット』は“ソニーのマリオ”になれるのか 無二のゲーム体験とポテンシャルへの期待
9月6日、『アストロボット』が発売となった。 発売直後から称賛が相次ぎ、すでに任天堂の人気アクションシリーズ「スーパーマリオ」と比較する声も出始めている同タイトル。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)が満を持して放つファーストパーティータイトルは、偉大な先達に比肩しうる存在となれるだろうか。類似するシリーズの現在地から、その未来を考えていく。 【画像】ソニーのマリオに!? 称賛相次ぐ『アストロボット』のスクリーンショット ■PlayStation 5の性能を生かしきった3Dアクション『アストロボット』がついに発売 『アストロボット』は、SIE傘下のゲームスタジオ・Team Asobiが開発を手掛けるアクションゲームだ。プレイヤーは、50以上の惑星が集まる銀河を舞台に、主人公の小型ロボット「アストロ」を操作し、事故で散り散りになってしまった仲間たちを探す冒険へと出かける。 特徴となっているのは、PlayStation 5とその専用コントローラーであるDualSenseの性能を生かした操作性。同機に搭載された触覚フィードバックの機能を通じ、ゲーム内における環境からの影響を生々しく体感するという点が、同タイトルならではの体験となっている。 『アストロボット』は2024年5月31日に配信されたPlayStationプラットフォームの新作情報番組「State of Play」のなかで、その存在が明らかとなった。主人公の「アストロ」は、PlayStation VR向けのタイトル『ASTRO BOT: RESCUE MISSION』や、PlayStation 5のプリインストールタイトル『ASTRO's PLAYROOM』に登場してきた存在である。これまではプラットフォームの魅力に花を添える存在として活躍してきた同キャラクターだが、シリーズ3作目にして初めて、フルゲームのひとつとしてそのラインアップへと加わることになった。 対応プラットフォームはPlayStation 5のみ。価格は7,980円(税込)となっている。 ■『アストロボット』はSIEの「スーパーマリオ」となれるか 期待のファーストパーティータイトルとして発表以降、大きな注目を集めてきた『アストロボット』。発売後のプレイヤーの反応は、これ以上ないものとなっている。アメリカのレビューサイト・Metacriticでは、94のメタスコアを獲得。この数字は、2024年中に発売されたフルゲームのなかで最高のものである。また、PlayStation Storeに寄せられたユーザーレビューでは、5点満点中の4.94という驚異的な評価を得ている(2024年9月11日現在)。専門家による評価と、ユーザーによる評価が乖離していない点が、『アストロボット』のゲームとしてのクオリティの高さを証明しているだろう。Metacriticにおいては、一部の高評価タイトルのみに贈られる「metacritic MUST-PLAY(必ずプレイすべきゲーム)」の称号にも輝いている。 実はSIEから“この手のアクションゲーム”がリリースされるのは、初めてのことではない。PlayStation 3の時代には、「ファーストパーティーであること」「愛くるしいキャラクターが主人公であること」といった点で『アストロボット』と通底する『リトルビッグプラネット』というタイトルが発売されている。同作はMetacriticにおいて、95点のメタスコアを獲得している。『アストロボット』を超える評価を得ている事実からは、『リトルビッグプラネット』のアクションゲームとしての完成度の高さを窺い知れる。 その後は複数のナンバリングやスピンオフ、移植版が展開されるなど、シリーズ化も果たした。2020年には、最新作『リビッツ! ビッグ・アドベンチャー』がPlayStation 4/PlayStation 5で発売を迎え、こちらも高評価を得ている。 奇しくも、『アストロボット』と『リトルビッグプラネット』は、PlayStation 5とPlayStation 3それぞれのコンソールサイクルの中盤から後半にかけてのタイミングでリリースされたという共通項も抱えている。前者が先日発表されたPlayStation 5 Proの訴求に一定の意味を持つ一方で、後者は軽量/薄型化と低価格化を盛り込んだ2009年ローンチのPlayStation 3新型モデルの普及に一役を買った。 『アストロボット』に対する評価のなかで時折見かけるのは、同タイトルと一連の作品がSIEにとっての「スーパーマリオ」になり得るのではないかという言説だ。その可能性を予測するうえで、共通項の多い「リトルビッグプラネット」シリーズの現在地は、この上ない材料となるのかもしれない。 第1作が『アストロボット』に勝るとも劣らない評価を得た同シリーズは、その後に発売された複数のナンバリングでも同様に好評を博したが、少なくとも現時点では、PlayStationプラットフォームの「スーパーマリオ」にはなり切れていない状況がある。そこに含まれる体験、「リビッツ」のアイコニックなキャラクター性などは大いにポテンシャルを秘めたものだったが、“大いなる存在”となるためには、まだ歴史も遊びの幅も足りていないといったところだろうか。だからこそ、まだ発売されたばかりの『アストロボット』に対し、そのような声が寄せられるところもあるのだろう。 「スーパーマリオ」という偉大な先達が残してきた足跡からすると、どちらもまだスタート地点に立ったばかりというのが実際のところだ。先んじて発売され、かつ一定の評価を得ている「リトルビッグプラネット」であっても、まったく手が届かない存在なのである。ひとつのタイトルが得た成功だけを材料に可能性を語ること自体が、あまりにも時期尚早であると言わざるを得ない。 一方で、そのような声が生まれることもまた、『アストロボット』の登場がいかにインパクトのある出来事であったかを端的に表している。強力なIPの不足が嘆かれるPlayStationプラットフォームであるだけに、同タイトルの成功は今後の展開を変える大きな起爆剤となっていく可能性がある。 少なくとも現状、『アストロボット』に含まれる体験は、PlayStation 5でしか実現できない。同プラットフォームに関連するさまざまなキャラクター/要素が“友情出演”している状況は、実に「スーパーマリオ」らしいとも言えるだろう。特にTeam Asobiが手掛けた往年の人気シリーズ「サルゲッチュ」の世界を本格的に再現したステージは、発売直後から話題を呼んだ。このような取り組みはSIEのブランド/IPの再利用と呼べるもの。今後リリースされるであろう続編において、世界観にうまく融合させることができれば、巨頭に対抗できるだけの魅力を備えていくことも可能なはずだ。 久しぶりに誕生した、“ゲームチェンジャー”となれるだけのポテンシャルを秘めたSIEのファーストパーティータイトル。『アストロボット』は、PlayStationプラットフォームの「スーパーマリオ」となれるだろうか。今後の展開を注視していきたい。
結木千尋