54歳と19歳の同期2人、盲学校で描く未来 心も温めるマッサージ
「つらいところはありますか?」「ここ、痛いですか?」。ベッドに横たわる人の肩や背中に、指先や手のひらを優しく当てて、もみほぐす。鳥取県立鳥取盲学校(鳥取市)の「治療室」。54歳と19歳の同期の生徒2人が、地域の人たちにマッサージをして交流を深めた。 【写真】鳥取県立鳥取盲学校=2024年12月5日午後3時3分、鳥取市、富田祥広撮影 54歳の清水香世さん=鳥取県米子市=は先天性の病気で生後すぐに手術を受けたが、左目を失明し、右目の視力も弱くなった。県西部の小中高校を卒業し、飲食店や役場の事務補助などの仕事をしてきた。22歳で結婚。息子3人は成人し、孫も1人いる。 4月に鳥取盲学校の専攻科理療科に入学した。あん摩マッサージ指圧師やはり師、きゅう師をめざす専門学科だ。生徒は1年生の自分だけ。「盲学校で学ぶのは勇気がいる。でも、『やってみるか』と思ったんです」 マッサージには以前から興味があった。一歩を踏み出したのは、父が体を動かせなくなる難病を抱えたからだ。「痛みを和らげたり、体の動きを少しでもよくしたりしてあげたい」。昨年10月には姉を亡くした。「私もいつ何があるか分からない。やりたいことはやっておこうと思いました」 あん摩マッサージ指圧師などの国家資格取得をめざし、知識や技術を3年間しっかり学ぶ。「私自身、目が見えにくいせいで頭痛薬を手放せなかった。同じような症状や難病を抱える人を楽にしてあげられるよう、留年せずに頑張ります」 19歳の田中心愛(ここあ)さん=鳥取県大山町=は生まれつき視力が弱かった。小中学校は地域の学校に通ったが、白杖(はくじょう)を手に歩いたりサングラスをかけたりするのは自分だけ。教室の席はいつも一番前。席替えでは最前列で横に移るだけだった。 「自分にとって一番良い進路を考えたい」と、鳥取盲学校の高等部普通科に進んだ。校舎内の廊下は真ん中に点字ブロックがあり、通行の邪魔になるものは何もない。同級生はおらず、3年間1人きりだったが、「配慮の行き届いた学校で先生たちも親切。高校生活はキラキラしていました」。 3月に卒業し、4月に高等部保健理療科に入学した。あん摩マッサージ指圧師をめざすのに必要な専門教科を3年間かけて学ぶ。「就職や今後の生活のことを考えると資格は大切。両親や先生と話し合って決めました」 保健理療科の生徒は1年生の自分1人だが、実技の授業は35歳上の清水さんと一緒に受ける。「私も頑張ろうという気になります」。平日は学校の寄宿舎、週末は自宅で過ごす。「将来はひとり暮らしをしたい。目標があって、今、すごく充実しています」 2人は12月5日、地域の人たちを学校に招いてマッサージする「あん摩奉仕」の活動をした。明治43(1910)年創立の学校で、半世紀以上続く伝統行事だ。それぞれ3人ずつを担当。学校周辺を歩いている時に声をかけてもらうなど、日ごろ支えてもらっている地域の人への感謝の気持ちを指と手に込めた。 82歳の女性は「1年生なのに、すごく上手だった。世間話も楽しくて、体も心もぽかぽか温まった」。清水さんと田中さんは、先生から「みなさんに同じようなリズムでできていた。自信になると思う」とほめられた。(富田祥広)
朝日新聞社